巨大地震発生の前に、その前兆現象として奇妙な虹が観測されることがある。
椋平虹(むくひらにじ)と呼ばれる虹だ。
空に椋平虹が現れると、86%の確率で大きな地震が発生するともいわれている。
…椋平虹は本当に地震の前兆現象なのだろうか?
その真実と、椋平虹の正体について紹介したい。
地震を予知する”椋平虹”とはなんなのか?
そもそも虹は、太陽光が雨上がりの空気中に存在する水分に反射して発生する現象。
こどもの頃に理科の実験でやったかもしれない。
ちいさなプリズムを太陽にかざすと、それを通った光が綺麗な7色の光を落とす。
これとまったく同じ現象が、雨上がりの空でも起こる。
大気に含まれる水分がプリズムの役割を果たし、太陽光が七色に分解され、空に美しいアーチを描くのだ。
では椋平虹(むくひらにじ)とは?
椋平虹とは、椋平広吉という人物が発見した地震の前兆現象(広観異常現象)のひとつ。
椋平虹は空に断片的な虹がかかるというもので、椋平はこの虹を観測することで、1930年に発生した北伊豆地震を、その発生場所や時間までピタリと当てたという。
北伊豆地震は1930年11月26日に発生したが、椋平はその前日の25日に京都大学に電報を打ち、地震発生を警告していた。
「アスアサ四ジ イヅ ジシンアル ムクヒラ」
これが一躍話題になり、椋平と椋平虹は当時の新聞で大々的に報道される。
しかし科学的な検証の結果、椋平虹はまったくのデタラメであるという烙印を押されることとなる。
地震を予知できたのも、手紙と消印を使ったトリックだとされた。
その結果、世間からイカサマ師と呼ばれた椋平は、それでも人知れず椋平虹の研究をつづけながら不遇の余生を過ごした。
椋平は伊豆の地震を本当に予知していたのか?
電報のトリックはあったのか?
その真偽は不明だが、実際に椋平虹は正確に北伊豆地震の予測に成功しているのは確か。
一説には、椋平虹の地震的中率たるや、実に86%もの驚異的な数値だったという。
原理はさっぱりわからないが、地震と椋平虹には何らかの関係があるのではないだろうか?
実際にたくさんの椋平虹と思われる虹が、地震の前兆現象として世界中で観測されている。
地震の直前に発生した椋平虹(むくひらにじ)の画像
椋平虹は多くの地震の前に観測されている。
参照元:30 mins before the 2008 Sichuan earthquake in China(YouTube)
2008年5月12日四川大地震(中国)の30分前に発生したと思われる椋平虹
参照元:熊本地震の直前に現れた地震雲!?(YouTube)
2016年4月に2度にわたって発生した熊本地震。その2週間ほど前に九州で観測された椋平虹。
これ以外にもたくさんの事例が実際に観測されている。
地震発生前に現れる「地震雲」なんてのは有名だけど、「地震虹」もあるのだろうか?
地震の前兆現象は、地面の中よりも「空」に明確に現れるのだろうか?
椋平虹(むくひらにじ)の正体
グーグルで「椋平虹」と入力し、画像検索すると様々な形の椋平虹が表示される。
それがこの画像だ。
ざっと検索結果を見ると、椋平虹に生涯を捧げた椋平氏の顔写真や、藤原咲平教授が書いた椋平虹についての論文「On the So-called Mukuhira’s Arc as the Foreshadow of an Earthquake」に添付されたイラストが表示されているが、それ以外はすべて”椋平虹とされるもの”の画像だ。
ここに表示された椋平虹、そして先ほど紹介した四川大地震や熊本地震の前に発生した椋平虹には、ひとつの共通点がある。
本来、虹は雨上がりの青空にかかるもの。
しかし椋平虹はすべて、七色の光が雲に映し出されている。
ここに椋平虹発生の重要なヒントがある。
そのメカニズムはめちゃくちゃシンプルで、つまり雲に含まれる水分や氷の結晶がプリズムの役割を果たし、それが太陽光を7色に変化させていると考えられる。
雲の位置、日差しの角度、雲に含まれる水分量、それぞれがベストな瞬間に、まったくの偶然で雲が七色に輝く。
気象の専門用語では彩雲(さいうん)と呼ばれる、ありふれた気象現象に過ぎない。
これが椋平虹に正体と考えられる。
もちろん、椋平虹が発生した直後に本当に地震が起きた事例もあるだろう。
しかし椋平虹が珍しい現象ではないので、地震との関連性もただの偶然である可能性が高い。
百歩譲って、無理やり椋平虹と地震と関連付けるのなら…
雲がプリズムの役割を果たすことで発生する椋平虹は、巻積雲や高積雲、つまり厚い雲ではなく小さくて細かい薄い雲で発生する確率が高い。
このような巻積雲や高積雲は、地震雲のひとつとして紹介されることもある。
地震の前兆現象として地震雲が発生し、椋平虹が発生しやすい環境ができる…そんな可能性もゼロではないだろう。
でもまあ、椋平虹が現れたら「ああ、めずらしい。きれいだな~」と思うだけでいいのではないだろうか。
地震の直前にあらわれる”白い虹”の正体
椋平虹は彩雲というありふれた気象現象であり、地震の前兆現象ではないことがわかった。
では、白い虹はどうだろうか?
虹は通常7色に輝くけど、ごくまれに真っ白い虹があらわれることもあるという。
この白虹が地震の前兆という噂がある。
古来から中国では白い虹が不吉の前触れと捉えられていた。
東日本大震災や鳥取地震の直前にも、不思議な白い虹が観測されていたとかいないとか。
…はたして本当なのだろうか?
実際に白い虹があらわれた事例を検証してみよう。
まず、ウェザーニューズの過去の記事から白い虹が観測された事例をピックアップしてみた。
- 2018年9月24日 神奈川県足柄郡箱根町
- 2018年6月6日 長野県白馬村
- 2018年2月16日 福井県
- 2017年9月25日 福井県越前市
- 2017年7月8日 長野県白馬村
- 2016年9月24日 北海道亀田郡
つぎに白い虹が観測された地域で、その数か月以内に震度4以上を観測するような地震が発生したかどうかを調査。
すると、その発生確率は…
なんと驚異の0%!!
地震大国の日本であれば、たとえ偶然でも地震が起きてそうだけど…。
逆に白い虹が観測された地域で地震が少なくなったくらい。
そもそも白い虹は”霧虹”とも呼ばれている、珍しいもののありふれた気象現象。
普通の虹は大気中の水分に太陽光が反射して現れるけど、白虹(霧虹)は霧の水分に太陽光が反射してあらわれる。
霧の粒はすごく細かいので、普通の虹のように7色に分光されず、すべてが真っ白く見えるのだとか。
しかも白虹は地震ではなく晴天の前兆現象。
むしろ縁起がいい気象現象といっていいかもしれない。
奇妙な虹と大地震の関係まとめ
椋平虹にしろ、白虹にしろ、大地震の前兆現象とはいえないようだ。
どちらも空気中の水分に太陽光が反射して発現する気象現象であり、常識的に考えて地震と関係あるはずがない。
もちろん常識的に考えなくても、虹と地震を関連付けるのには無理がある。
たとえば地震雲であれば「地震発生前の地盤の”ひずみ”が大気中に磁場を放出し、その影響で雲が規則性のある形に変化するのだッ!!」なんて、非科学的な解釈もできるっちゃぁ~できる。
深海魚が浜辺に打ち上げられる、みたいな前兆現象も「地震発生前に放出される強力な電磁波が深海魚のロレンチーニ器官に過剰な負担をかけ、方向感覚を狂わせたのが原因だッ!!」なんて、非常識的な解釈もできなくもない。
だけど、どれだけ想像力を働かせても、虹と地震をむりやりこじつけるのは困難だ。
というわけで、もし変な虹を見かけたとしても大地震が起きるわけではないので、安心して壮大な気象現象を楽しもう!!
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