猛暑の翌年には大地震が起こる、そんな地震にまつわる説がある。
近年、もっとも猛暑日が多かったのが1994年のこと。
その次に猛暑日が多かったのが、2010年のことだ。
1994年の翌年である1995年には阪神淡路大震災が発生している。
2010年の翌年である2011年には東日本大震災が発生している。
これは偶然なのだろうか?
もし猛暑の翌年に大地震が起きるとしたら、とんでもない猛暑日が続いた2018年の翌年である2019年には大地震が起きるのだろうか?
気象庁が発表している猛暑日のデータから検証してみよう。
猛暑の翌年には大地震が起こる説は本当なのか?
さっそく、気象庁が発表している真夏日や猛暑日についてのデータを紹介しよう。
まずは1931~2017年までの期間の真夏日(平均30度以上)の推移を示したグラフ。
画像参照:大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化(気象庁)
このデータは全国13地点の平均であり、都市部のヒートアイランド現象などの影響が比較的小さいと思われる。
パッと見ると、1930年代からあまり変わっていないように感じる。
「最近、地球温暖化が危惧されてるけど、実はそうでもないんじゃ…?」
そう思うかもしれない。
けれど5年移動平均線(青線)を見る限り、ちょっとずつ平均気温が上昇しているのがわかる。
少しずつ、でも確実に、地球温暖化は進行しているみたいだ。
では次に、問題の猛暑日についてのグラフ。
ちなみに真夏日は平均気温が30度以上のことで、猛暑日は平均が気温35度以上とされている。
こちらも同様に1931~2017年の期間で、全国13地点の平均で作成されたグラフだ。
画像参照:大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化(気象庁)
グラフを見れば一目瞭然だけれども、突出して猛暑日が多い年がある。
これをランキング形式にするとこうなる。
猛暑日が多い年ランキング
1位:1994年
2位:1942年
3位:2010年
4位:2012年
「猛暑日が多い年の翌年には大地震が起きる」という説が正しいのなら、これらの猛暑が多い年の翌年には大地震が起きているはず。
調べてみると…
猛暑ランキング1位の1994年、その翌年1995年1月17日には阪神淡路大震災が発生した。
都市部をマグニチュード7.3で最大震度7の地震が襲う、最悪の地震災害であった。
猛暑ランキング2位の1942年、その翌年の1943年9月10日にはマグニチュード7.2の鳥取地震が発生している。
…が、これは始まりに過ぎず、1944年12月7日にはマグニチュード7.9の昭和東南海地震が、1945年1月13日にはマグニチュード6.8の三河地震が、1946年12月21日にはマグニチュード8.0の昭和南海地震が発生している。
つまり、1942年の記録的猛暑は南海トラフ巨大地震の引き金になった可能性がある。
猛暑ランキング3位の2010年、これはもう説明の必要もないだろう。
翌年の2011年3月11日には、日本の歴史上最悪の大災害である東日本大震災が発生している。
猛暑ランキング4位の2012年、その翌年2013年は10月26日に福島県沖でマグニチュード7.1の地震が発生したり、他にもマグニチュード6レベルの地震が発生している。
だけどこれらの地震は東日本大震災以後の余震であると考えられ、大規模な被害は発生していない。
ちなみに最も有名な地震災害のひとつである関東大震災は、1923年の9月1日に発生した。
前年である1922年がどれだけ猛暑であったのか、残念ながら気象庁にデータは残っていない。
ただ東京の平均気温のデータはあったので少しだけ紹介すると、1922年8月の東京の平均気温は27.3度であり、近年の気温推移と比べると突出して高い気温になっていた。
また、1922年の猛暑についてはWikipediaでも少しだけ言及されていたので、それもあわせて紹介したい。
1922年(大正11年)
6 - 7月は平年並みに経過したが、8月の暑さが厳しかった。福井県福井市では8月20日に38.5℃を記録した。なお、当時は極端に寒い夏が多かったため、現在の平年値をやや上回る程度でも、当時としては極端に高かったとみられる。
参照:猛暑(Wikipedia)
1922年がどれだけ猛暑だったのか、正確なデータは残っていない。
しかし、1922年は当時としてはわりと猛暑な年だったのかもしれない。
…というわけで、気象庁が発表している猛暑日のデータと、実際に起きた地震災害の関連性について検証してみた。
日本は地震大国であり、毎年毎年大地震が発生しているといっても過言ではない。
なのでよ~く調べれば、猛暑日の翌年に大地震が起きるのは普通だし、冷夏の翌年にだって大地震は起きているだろう。
だけど、記録的な大災害の前年が猛暑の年である”傾向”は、確かにある気がする。
それは何故なのだろうか?
エルニーニョ現象による海水の温暖化が大地震の引き金になる
記録的な猛暑の年の翌年には、なぜ大地震が起きるのか?
太陽の熱で地盤が暖められて膨張するから?
地熱とかマグマとか、そんなものに影響を与えるから?
いろいろと考えてみたのだけれども、当然のことながらまったくわからない。
現実的に考えて、「猛暑の翌年に大地震が起きる」なんてただの偶然に過ぎないのだろう。
ただ、あえて強引に、無理やりに猛暑と地震を結び付けるとしたら、そこにはエルニーニョ現象やラニーニャ現象といった異常気象が絡んでいるのかもしれない。
「エルニーニョ現象とは、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より高くなり、その状態が1年程度続く現象です」
…と気象庁は説明している。
ラニーニャ現象は逆で、海水温が異常に低くなる異常気象のこと。
こちらの画像が気象庁のホームページで紹介されている、エルニーニョ現象が起きたときの海水の温度図。
左の図がエルニーニョ現象で、太平洋の赤道あたりから、南米ペルーの沿岸まで、海水温がすごぉ~~~く高くなっているのがわかる。
右の図のラニーニャ現象では、赤道直下の地域の海水温がめっちゃ低いことがわかる。
エルニーニョ現象やラニーニャ現象は発生すると、日本はもちろん、世界中で異常気象の引き金になる。
つまりこれらの異常気象が発生すると、太平洋全体の海水温が極度に”いびつ”になるということ。
海水は温度が低くなると密度が高くなり重くなる。
逆に温度が高くなると密度が低くなり軽くなる。
*完全に余談だが、昔のお風呂は上が熱いお湯で下がぬるいお湯だったため、お風呂全体をかき混ぜていい塩梅にする”かきまぜ棒”が常備されていた。くぅぅ懐かしい!!
このように熱い湯が上に行くのも、ぬるい湯が下に行くのも、温度によって密度と重さが変わってくるからだ。
もしエルニーニョ現象で海水温が異常に高くなったとしたら、太平洋全体の海水の重さが軽くなるということになる。特にチリ沿岸。
そうなると海水の重みで抑えられていた地盤が変動しやすくなる。
地盤の変動は地震を誘発する。
そのため太平洋プレート沿岸に地震が起きやすくなる。
…と、こんな風にも考えられるのではないだろうか。
「チリ地震と日本の関係とは?ふたつの地域の巨大地震が連動して発生する確率は100%!?」の記事でも紹介しているけど、オレゴン州立大学の研究者が「巨大地震は他の大地震を誘発するが、特に”地球の反対側の地域”に強い影響を及ぼす」という発表をしている。
①エルニーニョ現象で南米沿岸の海水が軽くなる
②太平洋プレートの沿岸、特にチリ沿岸で地震が起きやすくなる
③チリで地震が起きる
④連動して日本でも地震が起きる
とまあ、こんな感じの「風が吹けば桶屋が儲かる」的な流れで日本でも地震が起きているのかもしれない。
この考えが正しいとしたら、日本が猛暑日であった翌年にチリやペルーでも大地震が起きているということになるだろう。
実際のところ、どうなのだろうか?
日本の猛暑日、南米の地震、そしてエルニーニョ現象やラニーニャ現象の有無を調べてみた。
日本の猛暑年 | 対応する南米の地震 | 異常気象の有無 |
1994年 | 1995年7月30日 チリ、アントファガスタ州で地震 - Mw 8.0、死者3人。 | 1995年夏~1995/96年冬 ラニーニャ現象 |
1942年 | 1943年4月6日 チリ、コキンポ沖で地震 - Mw 8.2、死者30人 | 不明 |
2010年 | 2010年2月27日 チリ・マウレ地震 - Mw 8.8、死者452人 | 2010年夏~2011年春 ラニーニャ現象 |
データ参照元:エルニーニョ現象及びラニーニャ現象の発生期間(季節単位)
調べてみると、確かに猛暑年の翌年にチリで大きな地震が起きていた。
ただし2010年に関しては、翌年の2011年には南米で大きな地震が起きていない。
異常気象に関しては、エルニーニョ現象よりも、むしろ地震が発生している時期にラニーニャ現象が起きていることがわかった。
ラニーニャ現象では海水温が低くなるので、太平洋全体が重くなる。
だとしたら、地震は起こりづらくなるはず。
つまり、日本の猛暑日も、ラニーニャ現象やエルニーニョ現象も、地震発生にはまったく因果関係がなかった!!といえないだろうか。
…結局のところ、猛暑日が多い年の翌年に大地震が起きるなんてのは、ただの”偶然”なのかもしれない。
とはいえ、猛暑年と地震災害に奇妙な連動が見られるのは確か。
とんでもない猛暑だった2018年の夏、その翌年の2019年は念のため大地震に注意しておいた方がいいのではないだろうか。