精神と心理 雑学

子どもへの教育や部下への指導で怒っても効果が上がらない数学的な理由

先日、確率についての本を読んでいたら、面白いエピソードが書かれていたので紹介したい。

 

ある大学教授が空軍パイロットを育成する教官を対象として、指導方法についてのセミナーを開催した。

そこで大学教授は一般的に言われている当たり前のこと、つまり「厳しく指導しても逆効果だから、怒らないで丁寧に教えましょう」と言ったのだが…

 

その話を聞いていた教官のひとりが手を上げてこう答えた。

「わたしは20年間も新米パイロットを育てていますが、その話にはまったく同意できませんッ!!!

わたしも優しく指導する方がいいと思ったときがありましたよ。

それで生徒の飛行訓練の結果がよかったときにはしっかり褒めましたが、すると次のテストでその生徒の成績が下がるのです。

逆に飛行訓練の結果がダメだったときに厳しく怒ると、次のテストでその訓練生は良い成績を残します。

怒って厳しく指導することは優秀なパイロットを育てるのに必要不可欠、これはわたしの長年の教官人生で得られた確信です!!」

この話を聞いていた多くの教官たちが同意したという。

 

ここまでの話を聞いてどう思うだろうか?

厳しくした方がより成長する。

怒った方が問題行動が減り、よい行動が増える。

この教官たちの意見にあなたは賛同するだろうか?

 

話を戻そう。

厳しい指導は逆効果であるというのは事実であり、さまざまな心理実験でも確かめられている。

ではなぜ空軍パイロットの教官たちはそんな”勘違い”をしたのか?

興味を持った大学教授はセミナーのあとに、この奇妙な事実について真面目に調べてみた。

すると驚くべきことがわかったのだ…

なぜ怒ると成績がよくなり、褒めると成績が下がるのか?

なぜ怒ると成績がよくなり、褒めると成績が下がるのか?

その答えの前に、次のシンプルな質問を直感的に答えてみて欲しい。

 

父親が身長190センチで、母親の身長190センチだとしたら、その子どもの身長はどれくらいになるだろうか?(人類の平均身長を170センチとする)

①190センチより高くなる可能性が高い

②だいたい190センチくらいになる可能性が高い

③190センチより低くなる可能性が高い

 

…答えを選んだだろうか。

 

答えは③だ。

 

両親ともに190センチなら、なんとなく190センチより身長が高い子どもが生まれそうだ。

そんな感覚的な推論と矛盾するけど、実際は両親より身長の低い子どもが生まれる確率が一番高い。

 

これを統計学では平均回帰と呼ぶ。

平均身長が170センチだとしたら、そこに近づく結果がいちばん高確率で発生する。

あらゆる結果は平均へと回帰するわけだ。

そしてここが重要なのだけれど”平均回帰が当てはまらないプロセス”があったとしたら、それはいずれ破綻する。

 

もし仮に平均回帰を無視し、子どもが親の身長よりも高くなる確率が高かったとしたらどうなるだろう?

今頃人類は、20メートル以上の巨人族になっていたことだろう。

そしていずれ骨の強度が地球の重力耐えられなくなり絶滅していたかもしれない。

 

次に、最初に紹介した空軍パイロットのエピソードで、教授が発見した事実を紹介したい。

なぜ怒ると成績がよくなり、褒めると成績が下がるのか?

その答えもまた平均回帰にあったのだ。

 

その日たまたま成績が悪かった訓練生が怒られる。

その次の日はいつも通りの平均的な成績だったとしよう。

すると教官は「怒ったから成績が上がった」と勘違いする。

 

その日たまたま成績がよかった訓練生を褒める。

その次の日はいつも通り平均的な成績だったとしよう。

すると教官は「褒めたから成績が下がった」とする錯覚する。

 

怒った方が効率的に指導できるというのは、まったくの勘違いだったわけだ。

もし仮に怒った方が有効だというのであれば、成績がよかろうが悪かろうが関係なく、常に怒りまくって厳しく指導するのが最も有効な指導方法ということになる。

 

これは私たちに身近な対人関係にも言える。

もし誰かを怒ったとしてもほとんど意味がないし、トータル的には遥かにデメリットの方が多い。

大量無差別殺人を目論んで逮捕された誰かも、親が滅茶苦茶厳しかったとか。

とにかく親でも上司でも教師でも友達でも兄弟でも、どの立場であれ、怒りで他人をコントロールするのはやめておいた方がいいだろう。

 

では、どうすればいいか?

理解できるまで丁寧に教える。

何らかの利益を与えることで問題行動を改善させる。(オペラント条件付け)

いろんなアプローチがある。

 

環境を変えるのもいいだろう。

犯罪率がめちゃくちゃ高かった街で、壁一面に描かれたストリートアートや、道端に捨てられたたくさんのゴミを全部掃除して綺麗にしたら、犯罪率が劇的に下がったとか。

悪い環境を放置すると悪い行動が増える、これを「ブロークンウインドウ理論」と呼ぶ。

逆に良い環境に置かれれば、よい行動が増えるはずだ。

 

たとえば長年引きこもりの息子がいたとして、その息子を変えたいのであれば”毎日おいしい料理を作る”というアプローチも悪くない。

罰以外のいろんなアプローチを検証し、たくさん試してみるのがいいだろうね。

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