新年会で訪れた場末の居酒屋。その男子トイレ個室で事件は起こった。
新年早々に体験するあり得ない出来事、その詳細を報告しよう。
居酒屋の個室から聞こえるうめき声
長年の付き合いがある数人の男だけで行われた、ささやかな新年会。
あまりにも注文が遅い居酒屋の対応に文句を言いつつも、ぬるま湯のようなゆるい盛り上がりを見せたいつもの飲み会だ。
その席もほどよく時間が過ぎたころ、友人Aがトイレに立った。
しばらくすると、彼は笑ながら戻ってきた。
曰く「トイレの個室から凄い声が聞こえる!」との事。
それはおっさんの声で、大便と格闘している怨嗟の叫びだったという。
「ああ…痛てぇ…」
「くそッ!!出ろよ!!」
Aは笑いながら、聞こえたおっさんの言葉を教えてくれた。その声は恥も外聞もなく、外に丸聞こえの状態。おっさんの過酷な状況が見て取れる。
すると友人Bが「おれも行ってくる!」とトイレに向かった。案の定、Bも笑いながら帰ってきた。
「ああ…うう…何がダメなんだよ!」
今度はそんな風に言っていたという。
するとさらに友人Cが現場に向かった!彼も「すげぇ…」と言いながら帰ってきた。
「ああ…痛てぇ…くそぉ~!!」
外まで聞こえる大きなおっさんはの声に、小便器で用を足していた友人Cと隣の見知らぬ男は目を見合わせて苦笑したという。
…というわけで、ためしに私もトイレに行ってみた。
しかし私がトイレに行ったときには、残念ながらそのおっさんの声はもう聞こえなくなっていたのだ。
トイレ入り口のすぐ左にある個室のドアは、少しだけ開いていた。
私はその中を確かめる勇気がなかった。
声は聞こえないし、人の気配はない。たぶん誰もいないのだろう。
しかし万が一、糞尿まみれになって便器に覆いかぶさるように倒れているおっさんがいたら?血だらけのケツをこちらに向けていたとしたら?
とてもじゃないが、その扉を開けてその先を確認することが出来なかった。
「ああ…痛てぇ…」
「くそッ!!出ろよ!!」
「ああ…うう…何がダメなんだよ!」
「ああ…痛てぇ…くそぉ~!!」
脂汗をにじませながら顔を真っ赤にしているおっさんが容易に想像できる。聞くだけでケツが痛くなってきそうな魂の叫びだ。
今年は初日の出が拝めなかったので、代わりってことで。とても縁起の良い出来事だったと思おう。