「あなたはこれを使って!」
と命令口調で言われると、なんだか押し付けられたように感じるし、不満を感じちゃう。
でも、
「A、B、C、このうちからどれか選んでね」
このように選択支があると、選択肢がないよりも満足度は高くなる。
「選択肢は多い方が嬉しい!」
これは心理学的ないろんな研究でも証明されている事実。
選択肢あることの好影響は、精神的な満足度だけではなんく”健康面”にも及ぶとか。
たとえば老人ホームなどでは、利用者にびっちりと決められたルールで生活させるより、ある程度の選択肢を用意していた方が健康的に長生きできるという。
激務でストレス過剰な社長と、労働時間が短くストレスも少ない労働者、このふたつのケースを比べると社長の方が平均的に長生きの傾向にあるという
これも仕事における裁量(自分で選択できる幅)が社長の方が大きいから、選択肢が少ない平社員よりも健康なんだとか。
なんどもいうけど、選択は多ければ多いほどメンタル的にも健康的にもいいわけだ。
…でも、それとは真逆のような実験結果もある。
「選択肢は少ない方がよい!!」
それを検証したのが有名な「ジャムの実験」だ。
ジャムの実験が行われたのは、アメリカのとんでもなく品揃えがよい高級志向のスーパー。
5種類のミネラルウォーター。
250種類のマスタード。
250種類のチーズ。
300種類のジャム。
500種類の野菜や果物。
75種類のオリーブオイル。
ありとあらゆる食材がお客の目の前に陳列された、まるでエレクトリカル・パレードのようなスーパー。
「豊富な品揃えこそが正義だ!!」
そんな確固としたポリシーを持った男が店長だった。
ジャムの実験は、そんな大規模なスーパーで行われた。
研究者がジャムを選んだのは、ジャムだったら嫌いな人が少ないだろうという思惑から。
利用したのはイギリス王女御用達の高級ジャム「ウィルキン&サンズ」。
実験の内容はとってもシンプル。
まず、スーパーの入り口付近に特設のジャム試食コーナーを設置。
そこで「少ない選択肢」と「たくさんの選択肢」のある試食、それぞれを別の時間帯で行い、顧客の行動の変化を検証する。
使うのはウィルキン&サンズの全28種類のジャムのうち、24種類。
4種類のいちご、ラズベリー、ぶどう、マーマレードのジャムは、スタンダードで愛用者がいるという理由から外された。
比較として置かれるのは、グッと選択肢を絞った6種類のジャム。
セレクトされたのはちょっと珍しい、キウイ、桃、ブラックチェリー、レモンカード、レッドカラント、スリー・フルーツ・マーマレードの6種類。
時間帯を変えて2種類の試食を行い、お客さんの行動を観察する。
その結果は驚くべきものだった。
24種類のジャムの試食は目を引くのか、スーパーに来た買い物客の60%が試食をしてくれた。
対して6種類の試食は地味なせいか、買い物の40%しか訪れなかった。
どちらも平均すると2種類くらいのジャムを試食してくれた。
「やっぱりたくさんの種類があった方がいいじゃん!!」
…と思うかもしれないが、驚くべきことに売り上げに関してはまったくの逆の結果になったという。
試食してくれたお客さんには全員に「ウィルキン&サンズのジャム割引券」を進呈した。
有効期限は1週間で、1ドル割り引きになるサービスチケット。
ジャムを購入した人のほとんどが、その日のうちにこの割引券を利用していた。
ジャム売り場で買い物客をこっそり観察すると…
24種類のジャムを試食した客は、まず膨大なジャムの棚に困惑しているようだった。
「どれが美味しいのかな…?」
ジャムの瓶を手に取り、棚に戻す。
「ねえ、どっちがいいかな?」
こっちのジャムと、あっちのジャムを比べて悩む。
長いこと迷った挙句、何も買わない客が多かった。
6種類のジャムを試食したお客さんは、まったく逆の結果になった。
ジャムの棚にきても迷いなく、自分の好みのジャムを手に取って、すぐにその場を立ち去っていった。
クーポンの利用状況を検証すると、驚くべき結果となった。
6種類のジャムを試食したお客さんの、約30%は割引券を使ってジャムを飼っていた。
24種類のジャムを試食したお客さんはというと…実際にジャムを購入したのはたったの3%だったのだ!!
なぜ選択肢が少ない方が売上がアップしたのか?
「選択肢は多い方がイイ!」
という幻想を打ち砕く結果になった理由とは何なのか?
結論をいうと、「選択することはストレスになる」ってこと。
たくさんのジャムを試食したお客さんは、選ぶことにストレスを感じて、結局ジャムの購入をやめてしまった。
「モノを選ぶ」というのは、お客さんにとって迷いや後悔などのストレスの原因になる。
「こっちの方が少し安いな…ああ、だけど色が気に入らない」
「こっちがいいかも。でもちょっと予算オーバーだな」
「ぜんぶの中から選ぶのめんどくせ~!」
「なんでこんなにいっぱい商品があるのに、これだってものがないんだ??」
消費者は微々たる差でしかなく、内容がほとんど同じような商品を、わざわざ頭を使って選びたくない。
厳選した良い物を、どれを選んでも満足できるものを、少量用意する方が、売り上げは上がるわけだ。
P&Gは25種類あったフケ用シャンプーのなかから、売り上げの悪いものを大胆に切り捨てた。そうして売り上げのよい15種類に絞ったところ、全体の売り上げは減るどころか10%上がったという。
同じようにペット商品を販売するゴールデン・キャット・コーポレーションは、小袋タイプの猫用トイレで売り上げの少ない10種類を廃止した。すると売り上げが12%アップしたという。
しかも選択肢が少ないと、顧客満足度すらも上がる。
選択肢は少ない方がどれかを選ぶ可能性が高く、しかも自分の判断に自信を持ち選んだものへの満足感も高かったというのだ。
例えばラーメン屋で醤油ラーメンと塩ラーメンと味噌ラーメンがあったとしたらどうだろう?
そんな店に限って、チャーシューとか、激辛とか、とにかく選択肢が多い。
「好きなのは醤油なんだけど、塩ラーメンも美味しそうだなぁ~。ああ、味噌バターコーンなんかもあるのか…」
なんて悩みに悩み、注文の際に「じゃあ醤油で」といったとたんに(やっぱり塩ラーメンにしておけばよかったかな…)なんて思っちゃう。
優柔不断なわたしにとって、こんな苦悩は日常茶飯事だ。
それよりも「豚骨ラーメンしかありません!」みたいな潔いラーメン屋の方が、遥かにストレスは少ない。
「豚骨ラーメンしかないんだから、この豚骨ラーメンの味に自信を持っているはずだ」
とも思うし、自分の判断に自信が持てるし、満足度だって高まるはず。
しかしながら難しいのは、選択肢を絞れば必ずいい結果がでるってわけじゃないってこと。
お客さんの中には「たくさんの種類から選びたい!」というニーズを持った人もいるだろうし、少ない選択肢に満足できない人もいるだろう。
とくに自分が強いこだわりを持っているもの、大好きなものは、たくさんの中から選ぶことそのものが楽しみの場合もある。
たった一種類しかないラーメンが不味かったら、もう最悪だしね。
ちなみに人間がしっかりと比較検討して判断できる選択肢の数はせいぜい5~9種類くらいなんだとか。
たしかに10種類のラーメンからひとつを選ぶのは、ちょっとしんどい。
選ぶには10種類のラーメンの味を想像し、ベストを選ばなきゃいけないし。
選択肢が多すぎると「考えるのメンドクセ!!」ってなっちゃう人がいるのは、知っておいた方がいいだろう。
まとめ
- 選択肢の多すぎると、選ぶことそのものがストレスになっちゃう。
- 人が適切に比較できるのはせいぜい5~9種類の選択肢だけ。
これが品揃えが多すぎるお店で売り上げが下がる理由みたいだ。
例えばデートで食事をする場所を決める時、
「どこ食べに行こうか?イタリアンにする?フレンチ?和食?中華料理?寿司?ベトナム料理?インドカレー?とんかつ?ラーメン?牛丼?ハンバーガー?」
なんて聞いても「え~…どこでもいいよ」となっちゃう。
どこでもいいわけじゃなく、選ぶのが面倒だからだ。
そうして「じゃあ吉野家に行こうか!」なんて言おうものなら、「嫌、ほかがいい」となるわけで、(なんでもいいっていったじゃね~か!!)となる。
他人に選択を迫る場合は、有効な選択肢をギュッと絞った方がいいわけだ。
そしてもうひとつ、自分の人生については常に最終的な選択肢が自分にあることを忘れてはいけない。
たとえ刑務所の中だろうと、法律もない無人島だろうと、社長だろうと部長だろうと平社員だろうと、わたしたちは1日に何百回もの選択を行っている。
朝何を食べるか。
スマホを確認するタイミング。
歩く速度。
仕事の進め方。
会話の内容。
相手への態度。
まったく同じ職場でまったく同じ仕事をしていたとしても「自分が選択してやっている」と思っているのか「会社に命令されているからやっている」と思っているのかで、仕事への満足度や健康への悪影響は劇的に違ってくる。
きっちりルールが決まっていたとしても、その中で選べることはあるし、それを「自分が選んでいる」と思うことはとても大切だ。
「選択すること」は思いのほかストレスになる。
だけど「選択すること」を避けては通れない。
ストレスに耐えて自分で選択することが、自分の人生に責任を持つことに繋がるのではないだろうか。