一般的に、運動の習慣は健康維持に大切とされている。
だとしたら、日常的に身体を動かしている体育会系と、運動をまったくやらないオタクを比較した場合、運動をしている人の方が長寿のはずだ。
しかし、実際のところはどうなのだろうか?
1500人もの子どもたちの一生を調査したターマン博士の研究を元に書かれた「長寿と性格」という本の中から、運動と長寿の関係を紹介しよう。
体育会系とオタクはどちらが長生きなのだろうか?
健康のために運動をする…といっても、私たちはそれぞれ性格も違えば体格も違うし、環境も仕事も家族構成だって違う。
運動が大っ嫌いなのに、無理に運動をしたら逆に寿命を縮める結果になるかもしれない。
運動は長寿につながるのか?
ひょっとしたら、部屋に引きこもってゲームをしているオタクの方が長生きなのではないだろうか?
そんな疑問に明確な答えをくれるのが、スタンフォード大学心理学教授のルイス・ターマン博士たちが行った研究だ。
ターマン博士は1500人ものこどもを選び、その子たちの生涯を追跡調査した。
人生の追跡調査。
それは簡単な仕事ではない。
事実、研究が始まった1921年に40代半ばだったターマン博士は、選ばれたこどもたちの人生を最後まで追跡調査することができずに亡くなっている。1956年にターマン博士が亡くなると、こどもたちの人生を調査するのは後継の研究者に引き継がれることになる。
こうして長い時間をかけて出来上がったのが、1500人のこどもたちがどんな性格だったのか、どんなライフスタイルだったのか、いつ亡くなったのか、死因は何だったのか、などという人生の詳細なデータだ。
ターマン博士のデータを調べることで、運動の習慣と長寿の関係が判明した。
ターマン博士のデータを調べる際に、まず大きく2つのタイプにグループ分けをした。
運動が大好きな「体育会系」と、運動が大嫌いな「オタク」だ。
こどもの頃から活発な性格で、身体を動かして遊ぶのが好きだった場合、大人になってからも活動的な趣味を持つことが多かった。
こどもの頃から運動が嫌いで、外で遊ぶのが嫌いだった場合、大人になってからも読書などの身体を動かさない趣味を持つことが多かった。
ターマン博士の研究を追跡すると、ほとんどのケースでこどもの頃の趣味の傾向が大人になっても変わらないことがわかったのだ。
その一生を観察すると、やはり生涯にわたって活動的だった人は長寿であることがわかった。
つまり、オタクよりも体育会系の方が長生きの傾向があったのだ。
しかし運動をしているからといっても、全員が同様に健康になれるわけではない。健康長寿のためには、それぞれが自分に合った運動をする必要がある。
こどもの頃に活発だった場合には、確かに活動的な大人になる確率が高い。だけど、やっぱり大多数は加齢により運動量が減っていった。
ずっとスポーツマンだった人も、60歳を過ぎると動くのがしんどくなるし、スポーツを止めてしまうことも多い。自然と昼寝の時間やテレビを観る時間が増えていく。
例えこどもの頃からずっと体育会系だったとしても、中年以降に運動量が減っていったとしたら、とたんに死亡リスクは上昇する。こどもの頃からずっとオタクで運動しない人とそんなに変わらなくなるのだ。
長寿の人間は60を過ぎても、70歳や80歳でも、かわらずに精力的に身体を動かしていることがわかった。
「ああ、オレはオタクだから長生きできないな…」
運動が嫌いだからと言って、そんな風に落ち込まなくてもいい。
こどもの頃から運動が嫌いな人は、ほとんどの場合大人になってからも運動をまったくしない。だけれども、大人になってから急に運動に目覚める人も少数であるが存在する。
そんな人は、こどもの頃から運動大好きな人間と同じくらい、健康的で長寿な一生を過ごした。
運動が嫌いだったとしても、散歩でもダンスダンスレボリューションでも、自分に合った適切な運動を続けれままだまだ長寿になれるのだ!!
ランニングするのは健康と長寿につながるのか?
どうやらポイントは、中年以降から老年期にかけての運動量にある。
ターマン博士の研究を見る限り、老後もしっかりと運動を続けることが長寿につながるというのは確かなようだ。
しかし、だからといって運動=長寿というわけではないから注意が必要だ。
皇居の周りのランニングコースを走ることを「皇居ラン」と呼ぶ。皇居周辺は日本一有名なランニングスポットになっていて、サラリーマンから定年後のお年寄りまで、老若男女問わずランナーたちが走っている。
もちろんただ走るのが大好き!って人もいるのだろうが、彼ら、彼女らが皇居の周りをわざわざ排気ガスにまみれながらランニングする主要な目的は、たぶん健康のためだろう。
はたしてこれは正しい判断なのだろうか?
もし皇居のランニングコースでも、近所の公園でもいいから、健康維持のために走ろうと思った場合、身支度して、準備運動して、走って、クールダウンして、帰って、着替えて、シャワーを浴びて、なんてやっていたら、短く見積もってもトータルで1時間はかかるだろう。
これを毎日続けたとしたら、365日で約360時間をランニングに費やすことになる。これを健康のために20歳から40年間続けたとすると、14,400時間にもなる。
1日24時間の内、8時間を睡眠時間とすると、1日は16時間の活動時間がある。16時間を14,400時間で割ると、900日分の活動時間になる。
900日は約2年半だ。
40年にわたるランニングの習慣は確かに健康維持に一定の効果があったはずだ。肥満や生活習慣の予防にも一役買っただろう。しかし、走っている最中に心臓発作を起こすかもしれないし、足腰を傷める可能性もある。どう考えて、2年半以上も寿命が延びているとは考えられない。
もちろんこの計算は、物事を単純化しすぎている。毎日走り続けるなんて現実的でないし、一週間に3日くらいのランニングでも十分に健康的なはずだ。
それでも、嫌々ながら健康維持のために走るのは、総合的に見てまったく非合理的といえる。
純粋に走るのが好きならいいれけど。
人生を楽しむための運動こそが長寿の秘訣
健康で長生きするためには、生涯を通じて活発な運動をすることが大切。
だけれども、健康長寿を目的として運動するのではなく、自分の性格やライフスタイルに合った適切な運動を続けるのが大切だ。
ターマン博士の研究で長生きしていた人たちは、自分に合った方法で楽しく身体を動かしていた。
スポーツジムで汗を流すのが楽しければ、それをやり続ける。
音楽を聴きながら散歩するのが楽しければ、それをやり続ける。
みんなで集まって太極拳をやるのが楽しければ、それをやり続ける。
体育会系もオタクも関係ない。健康のためにという目的ではなく、あくまでも人生を楽しむための運動こそが、長寿の秘訣みたいだ。