「授業中にじっとしていられないわ、すぐにケンカするわで、手の付けられない悪ガキだったアイツも、大人になって随分と落ち着いてきたな」
なんてことはよくある。
このように、ADHD(注意欠陥多動性障害)はこどもの時だけの疾患と思われてきたが、最新の研究によると大人のADHDもかなり多いことが分かってきた。
ADHDの原因や対策、そして知的障害やアスペルガー症候群との違いについてレポートしよう。
ADHAの主たる3つの症状と原因、治療方法について
米国医師会(AMA)の精神医学専門誌「JAMAサイキアトリー(JAMA Psychiatry)」に発表された、英国とブラジルのそれぞれの研究チームによる独立した2件の研究論文によると、子どもの時にADHDと診断されなかったにもかかわらず、若年成人になって初めてADHDと診断されるケースが多いため、遅発型のADHD自体が独自の疾患である可能性があることが示唆されるという。
参照元:注意欠陥多動性障害、成人期に発症も 研究(AFPBB News)
ADHDはこどもの頃だけの問題と思われてきたが、実はおとなのADHDもかなり多いことが分かってきた。
あなたの友人や同僚、そして自分自身も、おとなADHDの可能性がある。
どうすればいいのか?
それを理解するためにも、まずはADHDを正しく理解しよう。
ADHD(注意欠陥多動性障害)の3つの症状
ADHAのおもな症状は3つ。
①不注意(注意力散漫で、集中力が持続しない)
②多動(落ち着きなく動き回る)
③衝動性(我慢できなかったり、癇癪を起こす)
これらの症状が、様々な場面で継続して半年以上継続すると、多動性障害と診断される。
小学校低学年の児童の約5%にみられ、圧倒的に男児に多い。
ADHDの発症原因はドーパミンやノルアドレナリンなどの脳内物質の機能不全にある。
つまり、ADHDは育て方や環境が原因ではない純粋に器質的な疾患だ。たとえばADHDで授業もじっとしていられないこどもだったとしても、そのお母さんの育て方にはなんの責任もないってこと。ADHDのこどもは自己評価が低くなりがちなので、お母さんは”そのまま”を受け入れてあげてほしい。
ADHDの治療には主に「塩酸メチルフェニデート」の投薬が有効とされる。それと並行して、本人や親へのカウンセリングも重要な役割を果たす。
ADHDをこどもの頃に適切に治療しないと、大人になってからうつやアルコール依存症になりやすいともいわれているので注意してほしい。
ADHDと知的障害やアスペルガー症候群の違い
ADHDと混同されがちな疾患に知的障害(精神遅滞)やアスペルガー症候群がある。
知的障害はIQ(知能指数)が様々な原因で、平均よりもはるかに低い状態を指す。
染色体異常や、先天性代謝異常など、知的障害には様々が原因が考えられるが、あくまでもIQの数値で判断する。ADHDとは全く違っているのがわかるだろう。
アスペルガー症候群は「知的障害を伴わない自閉症」と呼ばれている。
自閉症の主な症状は3つ。
①対人関係が苦手。笑わないし、視線も合わせない。また他人に興味も持たない。
②コミュニケーションに質的障害がある。うまく発音できない、言葉に抑揚がないなど。
③強いこだわりや反復行動をおこなう。状況の変化を嫌う。
自閉症の発症原因は完全に解明されていないが、脳機能の障害が原因とされている。
アスペルガー症候群は知的には正常だが、いわゆる空気の読めない困った人になりがちだ。その主な7つの症状を紹介しよう。
①相手の気持ちを考えることができず、極度にマイペース
②社会の暗黙のルールができず、他人との距離の取り方が極端。
③人間関係を円滑にする嘘やおべっか、つまり”処世術”というやつがまったく使えない。
④考えていることを小声でつぶやいてしまう。
⑤自分で理解していないような難しい単語を使いたがる
⑥特定の自分が興味あるモノを収集する
⑦運動がニガテ
このような症状が併発して現れるのが、アスペルガー症候群の特徴といえるだろう。
アスペルガー症候群は”社会性を著しく欠損させる”という意味ではADHD(多動性障害)ととてもよく似ている。しかし知的障害と同様に、そのひとつひとつの症状は全く違っていることが分かる。
おとなのADHDの問題点
このADHDという疾患は、基本的にこどもの頃に発症して、大人になると自然と消えると思われてきた。
確かに小学校のころ、どうしようもなくやんちゃで落ち着きのなかったアイツも、大人になって久しぶりに会ったらキリッとして落ち着いたヤツになった…なんてことはよくある。
しかし、最近の研究によると、この障害は大人になっても持続する場合もある。
さらに、こどものころにADHDじゃなかったのしても、大人になって発症する場合もあるという。
英ロンドン大学キングスカレッジの研究によると、成人期にADHDと診断された人たちの68%が、こどものころにはADHDの基準を満たしていなかったという。大人になってからADHDになるケースはかなり多く、こども時代のADHDとは別の疾患の可能性もあるというのだ。
それを裏付けるように、こどもと大人のADHDには違いがある。こどものADHDは男児が多いが、おとなのADHDに男女差はない。また、おとなADHDの方が遺伝的な要素も少ないという。
つまり、環境がおとなADHDの発症確率を上げている。実際、おとなADHDと診断された人の中には、うつやアルコール依存症の人が多かったという。そういった疾患が原因で、ドーパミンやノルアドレナリンの機能不全が起こり、ADHDも発症してしまうのかもしれない。
(さらにややこしいのは、こどもの頃のADHDを治療せずに大人になった場合も、うつやアルコール依存症になる確率が劇的に高くなることだ)
成人の実に4%がおとなADHDらしく、その症状はこどもの頃よりもパワーアップしていて、DVや虐待、交通事故や犯罪行動に繋がる確率も高いという。
おとなADHDかも?と思ったら
大人が集中力散漫だったとしても、落ち着きがなかったとしても、感情的で暴力的だったとしても、「努力が足りない」とか「育て方が悪かった」とか「こどもの頃からの性格」なんてものでまとめて片付けられてしまう。
これでは本質的な問題が見えてこないし、改善することもできない。これがおとなADHDの最も厄介なところだ。
おとなADHDの場合、生活に様々な弊害が現れる。
- 整理整頓できず、部屋も片付けられない
- 時間やお金にルーズすぎる
- 集中力がなく、飽きっぽい
- 優先順位をつけるのがニガテ
- 悲観的で心配性
- 怒りを我慢できない
もしこういった性格が”生活に支障が出るほどに酷い”場合は、おとなADHDの可能性がある。
自分がADHDかもと思ったら、周りのサポートを得ることが大事。家族・同僚にADHDのこと、そして自分のことを知ってもらい、サポートしてもらおう。それと同時に、病院で治療することも大事だ。適切な投薬で症状が収まる可能性もある。
そして何よりも大事なのは、自分を責めないということだろう。
ADHDを持っていると自己評価が低くなっている傾向がある。だれかから何度も同じことを注意されても改善できない自分、一生懸命に努力しても変わらない自分、そんな自分を責め続けてしまう。しかしそれは自分の努力で改善できる要素ではない。
神よ、変えられることは変える勇気を、変えることのできないものはそれを受けいれる冷静さを、そして、変えることのできるものと、変えることのできないものとを、見分ける知恵を与えたまえ。
By ニーバーの祈り
この言葉にあるように、変えることができないものを受け入れる冷静さを持つことが大事なのだ。
もしもあなたがひとりぼっちで悩んでいたとして…
もしもあなたがADHDで生きづらさを感じ、ひとりぼっちで悩んでいたとしよう。
難しいかもしれないけれど、自分を責めないであげてほしい。
たとえ周りが理解のないゴミクズ野郎ばっかりでのサポートが得られなくても、近くにいい病院がなくて適切な治療が受けられなくても、自分を責めずに受け入れることができれば…きっと人生も少しずつ良い方向に進んでいくんじゃないだろうか。