危機対策

南海トラフ巨大地震では九州から東京まで震度7くらい揺れるのだろうか?

2018年9月13日

まずはこの画像を見て欲しい。

これはyoutubeにアップされていた「南海トラフ巨大地震シミュレーション(NHKニュース)」という動画をキャプチャーしたもの。(現在この動画は削除済)

 

南海トラフってこんなに広範囲で大規模なものだったのか?

過去にもこんな規模の南海トラフ地震が起きていたのか?

市井の地震研究家である私は、この動画を見で不安になった友人からそんな質問を受けた。

 

太平洋沿岸がほとんど震度7!!

「日本終わった…」

そう感じざるを得ない、恐ろしいシミュレーションだ。

 

確かにこのようなシミュレーション画像をみたらビビるし、不安や疑問を感じるだろう。

最近ではバヌアツやニュージーランドで大きな地震が起きてるし、北海道でも大地震が発生している。

日本はもちろん、世界中で異常気象が発生しているし、南海トラフ巨大地震の危機が増大しているような気がしないでもない。

 

いつか必ず起きるとされる南海トラフ巨大地震、そのとき日本は破滅するのだろうか?

はたしてこの大規模な震度7のシミュレーションは現実化するのだろうか?

南海トラフ巨大地震における”最悪の想定”で震度7の地域は?

こちらが友人が見たという動画「南海トラフ巨大地震シミュレーション(NHKニュース)」。

NHKっぽいけど、NHKが作成したものではないらしい。

おそらく、というか確実にフェイク

 

この動画では南海トラフ巨大地震の最悪のシミュレーションとして、とんでもない震度分布図が紹介されている。

九州の東側、四国全域、静岡、三重、愛知、和歌山、大阪、さらには神奈川や東京まで、すべて沿岸部で震度7を記録しているのだ!!

はたしてこんな事態がホントに起きるんだろうか?

 

…結論から申し上げると、「可能性は低いけど起きないとは言い切れない」ってとこだろう。

そもそもM9.2という地震は起こり得るのか?

問題の地震シミュレーションでは、和歌山県の沖でマグニチュード9.2の地震が発生したことになっている。

 

問題は3つある。

 

ひとつ目は気象庁が想定する南海トラフ巨大地震の最大マグニチュードは9.1であるということ。

もちろん気象庁の想定が正しいわけではないが、マグニチュード9.2はちょっと大げさすぎるだろう。

さらに、ホントにマグニチュード9.2の地震が発生しても、これほど大規模に揺れる可能性は低い。

 

例えばマグニチュード9.0だった東日本大震災の、気象庁が作成している震度分布図がこちら。

震度7を記録した地域はわずか。

見ればわかる通り、東北の沿岸部は震度6弱か震度6強ばかり。

マグニチュード9.0の地震が太平洋沖で発生しても、震度7くらい揺れる地域は限られているわけだ。

 

先ほどの南海トラフ巨大地震シミュレーションではマグニチュード9.2の地震が発生したことになっていた。

マグニチュードはたった1違うだけで、エネルギーが約32倍違う。つまりマグニチュード9.0はマグニチュード8.0の32倍の規模。

なのでマグニチュード9.2の地震はマグニチュード9.0の地震に比べて0.2しか違わないけど、約2倍のエネルギーを持っている。

 

東日本大震災で発生した地震の約2倍の規模だとしたら、それはそれで凄い!!(そしてそれはあり得る話だ)

だけど、もし仮にマグニチュード9.2の地震が起きたとしても、広範囲に震度7を引き起こすほどのエネルギーはないだろうと思われる。

速報値でマグニチュード9.2であることの恐るべき意味

問題のふたつめは、M9.2という発表が地震発生直後の”速報値”であること。

気象庁は地震直後に、地震の規模と各地の震度を速報として発表している。

その最初の速報で発表しているのが「Mj:気象庁マグニチュード」という値で、正確さよりもスピードを重視している。

その後、より正確に計算しなおした「Mw:モーメントマグニチュード」を発表するという手順になっている。

 

東日本大震災の原因となった東北地方太平洋沖地震は気象庁マグニチュードは8.4で、その後発表されたモーメントマグニチュードは9.0であった。

気象庁マグニチュードというのは、M8を越える巨大地震では数値が過小評価になるという特徴を持ってる。

つまり最初の画像のような速報値の気象庁マグニチュードで9.2だとしたら、モーメントマグニチュードに換算すると9.6以上の可能性があるってこと。

 

人類観測史上最大規模の地震は1960年にチリで発生したMw9.2~9.5の巨大地震。

この地震では、遠く離れた日本でも死者が出たとか。

それを超えるような人類の歴史上未体験のレベルの巨大地震が、和歌山のすぐ南の地域で発生したとしたら…

日本の太平洋沿岸のほとんどが震度7レベルの揺れになる可能性もあるだろう。

 

ただし、これほどの規模の地震が発生する確率は限りなく低いと思われる。

南海トラフ巨大地震は複数の巨大地震が連動して発生する

問題の3つ目は、最初に紹介したシミュレーション画像が単発の地震であること。

南海トラフ巨大地震は南海トラフ地域にある700㎞に及ぶプレートで”ひずみ”が溜まり、それが解放されることで発生する。

  • 南海地震
  • 東南海地震
  • 東海地震

危惧されるのはこの3つの地震だ。

3つの地域で立て続けに巨大地震が発生する可能性があり、その最悪が現実化した場合にのみ「南海トラフ巨大地震」が発生する。

大規模な南海地震が発生したとしても、連動して他の地域が揺れなければ、それは南海大地震に過ぎないわけだ。

 

1944年にはマグニチュード7.9の東南海地震が発生し、その2年後の1946年にはマグニチュード8.0の南海地震が発生している。

1854年の安政地震では、東海でマグニチュード8.4の地震が発生し、その32時間後には南海でマグニチュード8.4の地震が発生したとされている。

この”連動する地震”が南海トラフ巨大地震の一番恐ろしいところ。

 

東日本大震災レベルの地震が、ほぼ同時に3回発生するというイメージ。

そしてそれは、可能性がゼロではない。

もしそうなったとしたら、その被害はとんでもないことになるだろう。

だけど、それでも最初に紹介したような震度7が広範囲に広がるほどの規模に達することはないと思われる。

ポイント

①気象庁が推定する最大マグニチュードは9.1

②気象庁マグニチュードで9.2はほとんどあり得ないレベルの大地震

③南海トラフで連動して9.0レベルの地震が起きたとしても、九州から東京まで震度7になることはない

気象庁が発表している南海トラフ巨大地震の最悪のシミュレーション

では次に、気象庁が発表しているある程度信ぴょう性の高い南海トラフ巨大地震のシミュレーション画像を紹介しよう。

それがこちら。

これはいろんなパターンで発生する南海トラフ巨大地震のすべてを計算したうえで、最悪の場合をシミュレーションした結果。

地図上の真っ赤な地域が震度7となる。

 

静岡県や和歌山県の一部の地域が震度7になっているが、それ以外の多くの地域が震度6以下になっていることがわかる。

それを踏まえてみると、九州から東京まで震度7というのは、ちょっと最悪を想定しすぎな気がする。

 

だけど、地震の専門家のいうことはまったく当てにならないのも確か。

だって、地震の専門家が危険といった地域とは別の地域に大地震が発生しているのだから。

 

熊本地震も、北海道胆振東部地震も、危険性を指摘していた専門家はいない。だれひとりとして。

ということは、南海トラフで人類史上最強の巨大地震が単発で発生する可能性もゼロではないだろう。

まとめ

あらためて見ると、youtubeの動画「南海トラフ巨大地震シミュレーション(NHKニュース)」の中で登場する南海トラフ直後の震度マップは、あまりにも最悪を想定しすぎている。

これほどの大被害が実際に起こる可能性は殆どないと思っていい。

今までの日本における地震の歴史を振り返っても、これほど大規模な地震は発生していないだろう。

もちろん、過去の地震の規模については正確にはわからないけれど。

 

しかし、可能性はゼロではない。

 

「あんなの、大げさすぎる。絶対起きないよ!!」

と考えていてはいけないだろう。

これくらいの地震がホントに発生することも十分にあり得るわけで、この震度分布図はある意味で正しいといえる。

 

あの最悪だった東日本大震災での死者は約1万8,400人。

最悪を想定した場合の南海トラフ巨大地震での死者は、約32万3,000人

これだけでも恐ろしいくらいの被害だけど、もっと最悪な事態になる可能性だってある。

大地震がいつどこで、どれほどの規模で発生するかは、専門家でもまったくわからないのだから。

 

だからこそ「日本のほとんどが震度7くらい揺れる!!」と思うくらいの心意気で、いつか必ず発生する南海トラフ巨大地震への対策をしっかりとしておくのが大切なのではないだろうか。

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