この人が来るといつも雨になるなぁ…。そんな人物の事をわたしたちは畏敬の念を込めてこう呼ぶ「雨男・雨女」と。
はたして、雨男や雨女なんて本当に存在するのだろうか?
結論から言ってしまえば存在するはずがない。
しかしながら、事実としてこの人が来ると雨になる確率が高くなる…といった人は存在するのだ。
不思議なことに。
その陰には人間に認知の歪みが引き起こす、ある種のトリックが存在する。
これを「認知バイアス」と呼ぶ。
認知バイアスを紐解けば、予知夢や予言が当たる謎も解けるかもしれない。
そもそも、認知バイアスとはなんだろうか?
認知バイアスとは?
認知バイアスとは何かの現象に遭遇した時、その現象を理解する際に、人間の思考のクセや自分自身の考え方によって認知にバイアス(かたより)が生じてしまうことを指す。
「思い込み」とか「勘違い」とかも認知バイアスの結果と言っていいかもしれない。
では、認知バイアスには具体的にどの様な種類があるのだろうか?
ジンクスが成立する原因!錯誤相関(さくごそうかん)
認知バイアスを引き起こす人間の考え方のクセのひとつに「錯誤相関」がある。
これはまったく関係のないふたつの事象を、勝手に関係があると思い込んでしまうこと。
例えば、ゲン担ぎやジンクスなんかがこれに当たる。
「このブレスレットを身に着けてから人生が変わった!!」
札束であふれた浴槽で美女を両脇に、下品に笑っている男が言っている広告を見たことがある。
しかし実際はその札束や美女とブレスレットに何の相関関係もない。
「ブレスレットを買ったけれど何も起きなかった人」を検証すれば、一発でわかるだろう。
交通安全のお守りを自動車のミラーにぶら下げている人と、そうでない人。
正確な統計を取ったわけではないが、事故率はほぼ一緒になるだろう。
たまたま起きたふたつの出来事を関連付けて考えてしまう「錯誤相関」が、いろんなジンクスやゲン担ぎ、はては心霊現象の原因になっていたりもするのだ。
信念はその信念を裏付ける事実でより強固なものになる。
ある種の持論や理念がある人がいたとして、その人はその理念を補強する現実しか認識しないという傾向がある。
「A型は几帳面な性格」という信念を持っている人がいたといしょう。
彼が出会ったA型の人間が几帳面な性格を持っていたとしたら、「やっぱりね!」とその信念はより確固としたものになる。
しかし逆にA型で大雑把な性格の人間にであったとしても、そもそも認識しないか、或いは特別な例外としてそれを無視する傾向がある。
自分に都合の良い事実が自分の信念を強固にする、そんな思考の偏りを積み重ねることで、人は時にとんでもなくヘンテコな信念を作り上げることもあるのだ。
先ほど例として「A型の人間=几帳面」という血液型性格占いを挙げたが、血液型で性格に偏りが起こることがないことは科学的に証明されている。
血液型別の性格を楽しむだけならいいが、ブラッドハラスメントという言葉があるように、それが差別に繋がる場合もあるから気を付けたい。
実は、この歪んだ認知バイアスは人種差別などを始めとしたあらゆる差別を醸成するといった危険な側面がある。
自分の中に差別意識があるとしたら、認知バイアスがかかっているかも?
生まれた所や皮膚や目の色で、もし自分が少しでも優越感や差別意識を持っているとしたら、一歩引いて俯瞰で見てみる必要があるだろう。
人は物事を肯定的な側面でとらえる
人間が持つ思考の偏りのひとつに「人間は物事を肯定的にとらえがち」というものがある。
そもそも、人間は否定的に考えることが得意ではないのだ。
「このスイッチを押さなければ、点灯しない」
この簡単な文章を読んで、すぐに理解できるだろうか?おそらく、ちょっと理解するのに混乱するはずだ。
「このスイッチを押せば、点灯する」
これは先ほどの文章と同じ意味であるが、肯定的に表現したもの。これなら一瞬で理解できるはずだ。
この事からわかるように、人間は否定的なことを認識しづらく出来ている。
何かしらの不思議な現象に遭遇した時に、本能的に人はまず肯定的にそれを捉える。
心霊現象に遭遇したとしたら、何かのトリックを考えるよりもまずは(幽霊いたぁぁ~~~)って思う。
怪しげな宗教団体の教祖が見せる奇跡も、それを完全否定するのではなく、心のどこかで「もしかしたら…ホンモノ?」なんて思ってしまう。
疑い深い人もたくさんいるけれど、元々人間は信じたいと思っていて疑うのが苦手に出来ているのだ。
だから時たま「自分は皇族の親戚で…」なんて信じられない詐欺事件が発生し、実際に被害者はそんなアホな話を信じ込んでしまう。
雨男や雨女が成立する理由とは?
人間はさまざな理由で、現実を正しく認識できないことがある。
雨男や雨女はいるのか?
これを検証するには「彼が来たとき雨が降った確率」と共に、「彼が来たとき雨が降らなかった確率」にも目を向けなければならない。
この差を検証すれば、それが正しくないということがわかるだろう。
自分を雨男だと思っている人、雨女と思っている人は、その信念を補強するような事実しか認識しない。
自分が遊びに行った日に雨が降れば、その事実は自分の信念を補強する情報として記憶される。
だけど自分が遊びに行った日に晴れていたとしても、それは「自分は雨男ではない」という情報とはならずに無視される。
本当はすべてのパターンを確認しなければならないのに、自分に都合のいい結果しか見ようとしないため、雨男や雨女なんて現象が発生するのだ。
まさに、認知バイアスのおかげで発生した錯覚と言える。
予知・予言と認知バイアス
地震の予言をしているブログや地震を科学的に予測している地震の専門家と呼ばれる人たちの発表をみると、驚くほどたくさん「地震が起きるかもしれない」といったニュアンスの発言を繰り返しているのがわかる。
その中で一つでも当たれば、予言や予測が当たったと話題になる。
しかし、その陰に膨大な数のハズレの存在があることを人は知らない。
予測や予知が正しいのかどうかは、それが外れた場合も含めて検証しなければならない。
しかし人々は当たっていることにだけ目を向けがちだ。
もしたくさんの的外れな予言があり、たまたま当たった予言があったのだとしたら…
認知バイアス的には、これらの予知や予言はただの偶然で、まったく当たっていないということになるだろう。
警察よりも前に水死体を発見したクロワゼット
1970年代に来日した超能力者クロワゼットは、行方不明だった女の子がダムの底に沈んでいるのを、警察よりも先に発見したことで話題となった。
これは実際にテレビの特番で放映され、日本中で話題となった。
警察より先に発見するなんて、まぎれもない予知能力やで!!
…しかし、果たしてそうなのだろうか?
実はクロワゼットの予言には、怪しい部分がたくさんある。
予言する事柄の情報を事前に仕入れておくテクニックをホットリーディングと呼ぶが、クロワゼットはこのホットリーディングを行っていたのではないかと言われているのだ。
ダムに女の子が沈んでいるという予言を的中させたものの、もともとそのダムは予言当日に警察や地元の住民によって大規模な捜索がされる予定の怪しい場所だったのだ。
予知能力者は適当な事を言ってハズレても、さもそれがもっともらしく真実の一端を言い当てていたかのように、人々の認知を歪めることが出来る。
だから堂々と予知しても平気なのだ。奇跡的に当たっていれば御の字だし、もしハズレたとしても、適当に言いくるめることが出来るから。
予知能力が語るのは曖昧なイメージであることが多い。
そこに、事前に仕入れておいた情報をプラスすれば、10回に1回くらいは当たるかもしれない。その当たった事実を10倍、100倍にして伝えるのが予知能力者の腕の見せどころなのだ。
クロワゼットは奇跡の予言をした来日の半年後に、もう一度日本を訪れて特番で予言をしている。
この時の予言は、まったく当たらなかった。当たった事実は覚えていても、ハズレたという事実を覚えている人は少ない…。
予知夢・正夢と認知バイアス
大災害や大事故が発生したとき、それを事前に夢で見ていたと語る人がいる。
そんな未来を予知したような夢のことを予知夢や正夢(まさゆめ)と呼ぶ。
自分の未知なる予言能力が夢として表れたのか?
或いは神が未来の危機を夢を通して告げられたのか??
そんなバカな!!
と思うかもしれないが、予知夢は世界中で実際に報告されている。
首相暗殺の夢を見た男、自分が死ぬ夢を見た男
1812年5月2日のイギリス、ジョン・ウィリアムズという男が奇妙な夢を見た。
当時の首相であったスペンサー・パーシヴァルが拳銃で撃たれ、暗殺される夢を見たのだ。
青い上着と白いベストを着た小さな男がいた。
そこに茶色い上着を着た男が現れ、小さな男をピストルで撃ちぬいた。
小さな男は倒れ、左胸の少し下にあった傷からはたくさんの血が流れた。
茶色い上着の男はすぐに拘束された。
「あの撃たれた男は誰ですか?」
そう聞くと「大蔵大臣ですよ」という答えが返ってきた。
その夢を見た約10日後の5月11日。
イギリス首相のジョン・ウィリアムズは、ジョン・ベリンジャムという男に射殺される。
着ていた服も、そして状況も、夢の内容とほとんど同じだったという。
ジョン・ウィリアムズは首相でありながら大蔵大臣も歴任していたのだ。
また、かの有名なエイブラハム・リンカーン大統領も予知夢を見ている。
「人民の、人民による、人民のための政治」でお馴染みの、第16代アメリカ合衆国大統領エイブラハム・リンカーンは、在任中に不幸にも暗殺されてしまう。
しかし、暗殺される2週間前、リンカーンは「大統領が殺される夢」を見ていた。
夢の中ではホワイトハウスの大広間で葬式が行われていた。埋葬の準備が整った死体、そしてそれを取り囲むたくさんの人々。リンカーンは警備の人間に「だれが死んだの?」と聞くと「大統領が暗殺されたのさ」と答えたという。
この夢を見たリンカーンは周りの人間に、大統領が暗殺された夢を見たことを伝えた。
そのわずか2週間後に、リンカーンは暗殺されたのだ。
予知夢・正夢の正体
予知夢や正夢はある種の事件が起きてから、「ああ、そういえばその事件の夢を見ていた!」と思い出すことがほとんど。
予知夢を見ていたから事故を回避できた、なんて話は聞いたことがない。
人間は一晩で何回も脈絡のない夢を見ている。
それが実際の事件をきっかけに、似たような夢を思い出し、予知夢と勘違いしてしまう。
この認知バイアスこそが、予知夢や正夢の正体。
だとするならば…
- 予知夢を見たことがある人
- 予知夢を見たいと思っている人
- 予知夢に興味がある人
これらに該当するのなら、予知夢に対する認知バイアスがかかっており、特に予知夢を見やすいだろう。
そもそもそんな夢見ていないのに記憶を改ざんする可能性もある。
まあ何はともあれ、予知夢や正夢と言うのは複雑な思考能力を持つ人間特有の「認知のイタズラ」に過ぎないだろう。
オカルトと認知バイアスまとめ
予知能力者は認知バイアスを逆手にとって、インチキをいっているだけの詐欺師だ!!とまでは言わない。
認知バイアスだけで説明がつかないような予言をしている人もいるだろう、多分。
また、迷信については、現在の科学で検討してみるとホントに効果があった!なんてことも度々起こっている。
古代の英知は偉大なのだ。
「明日が試合の日はカツ丼!」なんて何の根拠もないジンクスも、ひょっとしたら緊張を和らげ、精神を安定させる作用があり、ほんとに試合に勝つ確率を上げているかもしれない。
…しかし、雨男・雨女はダメ。
そんなものは、存在するはずがないだろう。
もし雨男や雨女がホントに存在するなら、世界中の雨男や雨女を砂漠に集めてそこに小さな集落をつくり、砂漠を緑豊かな土地に変えることだって出来るはずじゃないか!!
人間は「より効率的に思考するため」に認知バイアスを作り上げた。
すべての情報を処理していたら脳みその活動が滞ってしまうし、より効率的に思考するには余分なものは省く必要がある。
その効率化の弊害は認知バイアスだ。
わたしたちは無条件に「自分は正しい」と思っちゃうけど、意外と人間の思考とは信用ならないもの。
認知バイアスがあることをよく理解し、情報を精査すれば、アヤシイ情報を避けて正しい情報を選び取ることができるだろう。
情報過多なこの世界に置いて、今後、それはとても重要なスキルになってくるのではないだろうか。