2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震はマグニチュード9.0を記録し、日本の観測史上最大の揺れと災害を引き起こした。
この地震の4か月前のこと。
東北地方の沿岸と太平洋プレートで繋がっている小笠原諸島で、複数の深発地震が発生している。
2010年11月30日にはM6.9の地震が、深さ480kmの深くで発生しているし、2011年01月13日にはM6.6の地震が深さ520kmの場所で発生している。
深発地震は大地震の前兆となる、そんな噂があるけれど…
この深発地震が太平洋プレートに刺激を与え、東日本大震災を誘発したのだろうか?
過去の深発地震と巨大地震の関連性について詳しく検証しよう。
深発地震や異常震域とは?
まずは深発地震について簡単に説明しよう。
深発地震(しんぱつじしん)とは、その名前の通り、地下の奥深くが震源の地震のことを指す。
明確な定義はないものの、深さ200㎞以上の震源であった場合を深発地震と呼んでいる。
対して一般的な浅い震源の地震のことを浅発地震(せんぱつじしん)と呼ぶ。
地震が発生したときの気象庁の発表を見ればわかる通り、ほとんどの地震は震源が地下10㎞くらいであったりと、浅発地震に分類される。
深発地震の異常震域とは?
地下深くが震源となるため、深発地震には奇妙な特徴がある。
普通の地震は震源の真上が最も大きく揺れる。
当然だ。
だけど深発地震は震源から遠く離れた場所が大きく揺れる場合がある。
これを深発地震の異常震域と呼ぶ。
たとえば2019年7月28日に三重県沖で発生した深発地震の震度がこちら。
三重県南東沖が震源なのに、もっとも大きく揺れたのが宮城県や福島県。
震源と近い三重県はほとんど揺れていない。
これは深発地震の震源があまりにも地下深い場所にあるため。
震源から発生した地震波が、マントルや地盤などの影響で衰退したり増幅したりした結果、遠く離れた場所が強く揺れることがあるという。
もちろん、そのメカニズムが完全に解明されているわけではないので推測の域を出ないわけだけど。
深発地震と海溝型地震の違い
地震発生のメカニズムは、めっちゃ大雑把に分けると「内陸型地震」と「海溝型地震」に分けられる。
内陸型地震は地下深くにある地盤(プレート)が圧力によって割れたり、地盤の割れ目の歪が解放されることで発生する。
直下型地震とも呼ばれ、日本の内陸で発生する地震の多くがこれに該当する。
海溝型地震は太平洋プレートやユーラシアプレートなどの超巨大なプレートの境目で圧力が加わり続け、それが限界を迎えて解放されることで発生する。
日本周辺のプレート境目で発生する地震で、東日本銀行は典型的な海溝型地震だ。
では、「深発地震」は??
それを理解するためには、地球の構造を少しだけ知っておかなければならない。
地球というのはミルフィーユのように、何層も分かれて構成されている。
一番表面は私たちが生活している大地(地表)が存在する。
この地表は太平洋プレートやフィリピン海プレート、ユーラシアプレートなどの地殻の上に乗っかっている。このプレートが少しずつ動くことでひずみが溜まって地震が発生しちゃう。
このプレートの下は「上部マントル」という層になっていて、そのすぐ下は「下部マントル」となっている。
画像:Wikipedia「地球」より参照
深発地震は上部マントルと下部マントルの境目で発生すると考えられている。
少しずつ動いているプレートが地下深くに沈み込んで下部マントルまで到達し、そこにひずみが溜まっていく。
そうして限界を迎えると、たまったパワーが解放され、下部マントルがある地下深くで地震が発生するわけだ。
海溝型地震の震源が浅いのは、プレートとプレートがぶつかっている場所が震源だから。
対して深発地震はプレートと下部マントルがぶつかっている場所が震源のため、凄まじく深い場所が震源となる。
そんな深発地震は大地震を誘発するとか、深発地震は大地震の前兆現象のひとつであるという説がある。
はたして本当なのか?
まずは過去に発生した深発地震の履歴を確認してみよう。
過去の深発地震発生の履歴
では次に、過去に発生した深発地震の中でも規模の大きなものの履歴を確認してみよう。
2008年11月24日 オホーツク海
マグニチュード7.3 震源の深さ 491.6Km
2010年11月30日 小笠原諸島西方沖
マグニチュード7.1 震源の深さ深さ494km
2012年1月1日 小笠原諸島鳥海近海
マグニチュード7.0 深さ370㎞
2013年5月24日 オホーツク海
マグニチュード8.3 震源の深さ 609.8Km
2015年5月30日 小笠原諸島西方沖
マグニチュード8.1 震源の深さ682km
2018年12月10日 三重県南東沖
マグニチュード5.3 震源の深さ370㎞
2019年4月5日 小笠原諸島・鳥島近海
マグニチュード5.9 震源の深さ420㎞
2019年7月28日 三重県南東沖
マグニチュード6.5 震源の深さ420㎞
深発地震は発生する場所がある程度きまっていて、日本近海となるとオホーツク海、小笠原諸島、三重県南東沖の3か所が多いみたいだ。
では、深発地震は本当に巨大地震を誘発するのだろうか?
深発地震は巨大地震を引き起こすのか?
気になるのは2010年11月30日よ2011年1月13日に小笠原諸島西方沖で発生した深発地震だ。
この深発地震の数カ月後に東日本大震災が発生している。
小笠原諸島も東日本大震災の震源も、太平洋プレートの側ということで一致している。
小笠原諸島の地下深くで大きな地震が発生したことで太平洋プレート全体が揺れ、その影響で三陸沖に溜まっていたひずみが解放された…そんな想像もできる。
「小笠原諸島周辺での深発地震は太平洋プレート沿いの海溝型地震を誘発する」
このような仮説が正しいかどうか、過去の地震の歴史をたどってみよう。
小笠原諸島の鳥海近海で発生した深発地震一覧
- 2008年10月1日 M5.6 深さ410㎞
- 2011年8月7日 M4.8 深さ430㎞
- 2012年1月1日 M7.0 深さ370㎞
- 2012年5月12日 M5.4 深さ400㎞
- 2012年10月23日 M5.8 深さ450㎞
- 2012年11月12日 M5.8 深さ510㎞
- 2013年3月16日 M5.2 深さ410㎞
- 2013年4月21日 M6.7 深さ450㎞
- 2013年7月28日 M5.6 深さ460㎞
- 2013年9月4日 M6.9 深さ400㎞
- 2013年12月18日 M5.2 深さ440㎞
- 2014年3月22日 M5.3 深さ430㎞
- 2015年1月25日 M5.7 深さ430㎞
- 2016年2月15日 M6.2 深さ430㎞
- 2016年8月22日 M5.7 深さ410㎞
- 2016年8月26日 M6.1 深さ490㎞
- 2016年11月24日 M5.3 深さ360㎞
- 2019年4月5日 M5.9 深さ420㎞
- 2019年6月4日 M6.1 深さ440㎞
小笠原諸島西方沖で発生した深発地震一覧
- 2009年05月26日 M5.2 深さ470km
- 2009年09月23日 M4.8 深さ420km
- 2010年07月31日 M5.2 深さ500km
- 2010年11月30日 M6.9 深さ480km
- 2011年01月13日 M6.6 深さ520km
- 2011年07月16日 M5.2 深さ480km
- 2011年10月04日 M5.8 深さ450km
- 2012年02月29日 M5.2 深さ520km
- 2014年07月01日 M6.1 深さ520km
- 2014年09月22日 M5.1 深さ520km
- 2014年09月22日 M5.4 深さ510km
- 2015年05月30日 M8.5 深さ590km
- 2015年06月15日 M5.4 深さ380km
- 2015年06月23日 M6.9 深さ480km
- 2015年06月23日 M5.3 深さ 440km
- 2015年10月20日 M5.7 深さ280km
- 2016年11月23日 M5.7 深さ510km
- 2017年01月11日 M5.1 深さ470km
- 2017年06月17日 M4.8 深さ540km
- 2017年10月01日 M5.4 深さ490km
- 2017年12月17日 M4.9 深さ480km
- 2018年02月06日 M5.7 深さ490km
- 2018年06月03日 M4.7 深さ530km
- 2018年10月07日 M5.5 深さ410km
- 2018年12月15日 M5.9 深さ480km
- 2019年05月17日 M4.5 深さ460km
この地震の歴史を見ればわかる通り、深発地震というのは特に珍しいものではなく、1年に何度も発生している。
深発地震が発生したからといって、大地震が起きるわけではないのがかわるだろう。
とはいえ、マグニチュード7レベルの地震であれば、その他の地域に何らかの影響を及ぼす可能性がある。
そこでマグニチュード7.0レベルの地震が起きた後に、太平洋プレート沿いで大きな地震が起きたかを調べてみた。
小笠原諸島の深発地震 | 太平洋沖の地震 |
2010年11月30日 M6.9 | 2011年3月11日東日本大震災M9.0 |
2012年1月1日 M7.0 | 2012年福島県沖M5.1 |
2013年9月4日 M6.9 | 2013年10月26日福島県沖M7.1 |
2015年05月30日 M8.5 | 2015年7月10日岩手県沿岸北部M5.7 |
日本ではマグニチュード5.0レベルの地震は日常茶飯事。
たとえ発生したとしても、それは偶然で片が付く。
だとしたら…小笠原諸島近辺でマグニチュード7.0レベルの深発地震が発生した後に、太平洋プレート沿いで連動して地震が発生したと思われるケースは東日本大震災と2013年10月26日のの地震の2つとなるだろう。
これじゃあ、関係あるのかないのかわからん!!
結論としては、「何らかの関係はあるかもしれないけれども、それはわからないし、もし深発地震が発生したからといって大震災が発生するとは限らない」ってことになるだろう。
三重県南東沖の深発地震は南海トラフ巨大地震を誘発するのか?
2019年07月28日3時31分頃、三重県南東沖でマグニチュード6.5、深さ420㎞の深発地震が発生した。
この場所は思いっきり南海トラフ巨大地震の震源地として想定される範囲内にある。
深発地震によってフィリピン海プレートとユーラシアプレートの境目が真下から揺さぶられ、南海トラフ巨大地震を引き起こす可能性もゼロではないのではないか!!?
というわけで、三重県南東沖で過去に発生した深発地震の履歴について調べてみた。
- 2019年07月28日 M6.5 深さ 約420km
- 2018年12月10日 M5.3 深さ 約370km
- 2018年07月02日 M4.1 深さ 約360km
- 2017年01月03日 M4.8 深さ 約380km
- 2013年09月23日 M4.0 深さ 約370km
- 2013年08月13日 M4.3 深さ 約370km
- 2010年04月27日 M4.4 深さ 約380km
- 2008年09月06日 M5.3 深さ 約410km
これが2008年頃から三重県南東沖で発生したすべての深発地震。
これをパッと見て気になることが2つある。
ひとつは、2018年くらいから深発地震の頻度が上がっている気がするってこと。
もうひとつは、2019年7月に発生した深発地震が、規模、深さ共に、以前の深発地震よりも大きく、深くなっていること。
マグニチュードは1違うと、発生するエネルギーが32倍も変わってくるという。
2019年7月の深発地震は、それまでの地震よりも何十倍も強いエネルギーを持っていて、約50㎞も深い位置で発生している。
下部マントル周辺で発生した大きな揺れは上部マントルからプレートに伝わり、海溝型地震を発生させる引き金になるかもしれない。
だとしたら、深発地震はやっぱり南海トラフ巨大地震の前兆なのではないだろうか!!?
な~んてことはないのだろうけれども、念のため南海トラフ巨大地震に気を付けておいた方がいいかもしれない!!