JAMSTEC(海洋研究開発機構)が運用している地球深部探査船ちきゅう号。
このちきゅう号が海底を調査していると、その地域に大きな地震が発生するという。
そのため「ちきゅう号は人工地震発生装置だ!!」というトンデモナイ都市伝説がある。
陰謀論者いわく、ちきゅう号は調査のために海底深くまで穴を上げるのだけれど、その穴に核爆弾を仕込んで爆発させるのだとか。
んなアホな!?と思うかもしれないが、JAMSTECのスタッフもちきゅう号には人工地震を発生させる装置がついていることを認めている。
本当にちきゅう号は大地震を発生させることができるのだろうか?
ちきゅう号が人工地震を起こす理由
ちきゅう号の説明をしているJAMSTECの掘削操業監督の説明のなかに、確かに”人工地震”という言葉がでてきたことがある。
「やっぱりちきゅう号は地震を起こしているんだぁぁーー!!」
と、オカルト信者たちは歓喜したわけだが、そのちきゅう号の説明を書き起こしてみた。
「…これはLWDと呼ばれるもので、パイプの先に着けて坑内の様子を探るツールスです。
具体的には、この裏には位置上のガンマ線を測定する装置、それから中性子検層、それと比定工具層、方位傾斜、その他、人工地震などを発生させまして、その地震波を測定するための装置です」
確かに人工地震と、はっきりと言っている。
「じ、人工地震!!?
あわわわわ…や、やべーぜ!!」
と、そう思うかもしれない。
しかし人工地震とはいっても、ちきゅう号の調査で巨大地震を発生させるのは不可能。
ちきゅう号は人工地震で発生した地震波を測定することはできても、巨大な人工地震を発生させることはできない。
地中で核爆弾を爆発させれば確かに人工地震は起きるだろう。
しかし規模の大きなものは無理。
冷戦時代に核軍縮でたくさんの核爆弾を処分しなければならなかったとき、地下で何十メガトンもの大量の核弾頭をいっきに爆発させたことがあった。
その時に発生した地震がマグニチュード7クラスだったのだとか。
それほどの大量の核弾頭をちきゅう号に搭載するのも、海底奥深くに設置するのも不可能だろう。
そもそも人工地震を発生させるのは、基本的になんらかの調査・研究のため。
地震による液状化現象を調べたり、地下深くの地盤の状態を観測するために行われる。
まず、ダイナマイトや特殊な装置によって人工的に地下を揺らして衝撃波を発生させる。
その衝撃波は地盤の固い部分と柔らかい部分で、伝わり方のスピードが違ってくる。
この地震波のスピードの”差”や地盤が揺れ方などを綿密に測定し、観測できない地盤の状態を知ることができるのだ。そしてそれを実際に発生する大地震のために生かす。
人工地震は怪しげな陰謀ではなく、調査方法のひとつでしかない。
ちなみに人工地震を発生させる施設は、日本の地上にも数か所設置され、地盤の研究のために活用されている。
また、ちきゅう号は地下の観測だけではなく、地中の奥深くまで掘削してその穴の奥に地震観測装置を設置したりしている。
いつか起こるであろう「南海トラフ大地震」の前兆現象を観測したり、地震発生の仕組みを解明するために日々頑張っているってわけだ。
では、本当にちきゅう号の”調査”によって地震は起こらないのだろうか?
…だけど、陰謀論者が不安になる気持ちもわからないでもない。
ちきゅうは地下7,000メートルまで掘り下げることができる。
ず~っと圧力が溜まり続けている、太平洋プレートの境界線。そこに深く穴を開け、観測装置を設置したり、人工地震を発生させたとしたら、プレートにどんな影響が及ぶのかは誰もわからないだろう。
アメリカではシェールガスの採掘によって、いままで地震がまったく発生しなかった地域も地震に襲われるようになった。
採掘方法は、まず地中深くにパイプを通して、そこに化学薬品の混ざった水を高圧で注入し、地盤を破壊することで発生するガスを採取するというもの。この方法は当初安全と言われてきたけど、岩盤への影響がすさまじく、地震の頻度が何倍にも増えてしまったという。
この例と同様に、地下深くの調査活動が地震を誘発する可能性もゼロではないのだろうか?
この不安に対し、JAMSTEC(海洋研究開発機構)のホームページにあるQ&Aコーナーではこう答えている。
質問
「ちきゅう」は科学史上初めて巨大地震の震源まで掘削し、そこを直接観測するということなのですが、逆にこの掘削による影響で、巨大地震を誘発してしまうようなことはないのでしょうか。
答え
結論としては、掘削によって巨大地震が引きこされることはありません。掘削が仮にアスペリティーを掘削したとして、アスペリティー全体の破壊を進行させるような影響、特にアスペリティー内の圧力を上昇させ、破壊を引き起こす事(摩擦強度が小さくなる)とは、掘削は逆のセンス(圧力は下がる)ですし、何よりもスケールとしてはアスペリティーが数十キロオーダーあると考えられているのに対して、掘削孔は直径20センチメートル程度ですので、針でつつくよりも小さい穴をあける事と同じです。全く無視できると考えてよいかと思います。
参照元:「ちきゅう」Q&A(現在は削除されてます)
アスペリティーとは、”地震が発生したときに動くひずみの蓄積した場所”のこと。
もしアスペリティーを掘削したとしても、むしろ地盤の圧力は下がるし、圧力が下がれば地震のリスクも下がる。
それに開ける穴は直径20センチくらい。全く無視できるレベルだってJAMSTECは答えている。
圧力が下がるって…掘削をきっかけに地盤がズレて大地震を誘発する可能性もあると思うんだけど。それに20センチは確かに、プレートの大きさに比べてとんでもなく小さい穴だろうけど、それが地震を誘発しないとは言い切れない。
それに…なんというか…地震は起きないという説明の仕方が、不祥事を起こした企業や政治家みたい。地震は起きないという”結論ありき”な気がして信用できないなぁ~~。
ちきゅうは今どこにいるの?
地球深部探査船ちきゅうは世界中の海底で活躍している。
現在のちきゅう号の所在地については、JAMSTECのホームページで確認できるぞ!!→地球深部探査船ちきゅう号の現在地はこちら
問題は探査船ちきゅうが、ついに南海トラフ境界部を掘削することが決定したってこと。
繰り返し起こる巨大地震の震源域「南海トラフ」のプレート(岩板)境界部を初めて掘削調査するため、海洋研究開発機構の地球深部探査船「ちきゅう」が10日午前、静岡県清水港を出港した。海底下約5200メートルまで掘り進み、境界部の岩石の採取などをする。順調にいけば、震源の断層に2019年1~2月に到達する予定。地震発生の予測に役立てる。
参照元:探査船「ちきゅう」出港、南海トラフ境界部を初掘削へ(日経新聞)
予定は2019年1月~2月。
紀伊半島沖の熊野灘の水深2000メートルの海底を掘削し、5200メートルまで掘り進める。
そこで断層を分析したり、ひずみの蓄積状況を調べるのだとか。
「最近地震が多いし、これがきっかけで南海トラフ地震起きるかも!?」
と思うかもしれないが、ちきゅう号は頻繁に南海トラフに潜っている。ちきゅう号の職場みたいなもので、特段珍しい事じゃない。
それに、ちきゅう号がいた場所で大地震が起きるなんてのはただのこじつけ。
確かに採掘場所の近くが震源の地震は発生したことがあるけど、「ちきゅう号が大地震の原因」なんてかなり無理のある都市伝説なのだ!!
ただし、南海トラフ”境界部”を5,000メートル以上も掘削するのは初めてなんだけど…。
人工地震と探査船ちきゅう号まとめ
人工地震はあくまでも地震のメカニズムを研究するための調査のひとつ。ちきゅう号は大地震をおこせるわけじゃない。
確かに地震の発生メカニズムが解明されたわけじゃないし、海底深くへの掘削調査が地震発生のきっかけになるかもしれない。
しかし、その可能性は限りなくゼロに近いだろう。
南海トラフ地震はいつか必ず起きるだろうけど、その発生とちきゅう号の掘削に因果関係はないのだ…多分。
もしプレートの境界線地中深くに設置されたのが地震観測装置ではなく、小型の核爆弾だったとしたら…同時多発的に爆発させることで南海トラフ大地震を発生することができるかもしれないけど。