例えば大勢の人の前でスピーチをしなければならないとしよう。
人前に出るのは苦手だし、心臓はドキドキ!
手は震えるし、喉はカラカラだし、頭は真っ白!!
そんな極度に緊張している状態では、本来の自分の能力を出し切ることは難しい。
ベストなパフォーマンスを行うにはほどよく緊張しつつも、ある程度はリラックスした状態が理想だ。
だけど、心が「落ち着け!落ち着くんだ!」と強く思っても…身体の方はパニック寸前!!
そんな爆発しちゃいそうな身体の状態を落ち着かせるにはどうしたらいいのだろうか?
「大丈夫だよ、聞いている人みんなジャガイモだと思えば少しは落ちつくよ!」
なんてアドバイスをもらっても、「なんでジャガイモ?てか、人間をジャガイモと思えるわけないじゃん!」と思っちゃうし、まったく何の役にも立たない。
「リラックスするにはぬるめのお湯にゆっくり浸かったり、あとはヨガなんかもいいよ?」
なんてアドバイスをもらっても、「ふざけんな!あと15分でスピーチ始まるのにゆっくり風呂だのヨガだのできるか!!」と思っちゃうし、まったく何の役にも立たない。
「だれも君のスピーチなんて聞いてないよ。あんまり気にせずに自然体でやってきなよ!」
なんてアドバイスをもらっても、「そんな悲しい現実を今、言うか!?でもな、誰も聞いてなくても聞いてても、みんなの前に立つってだけですご~~く緊張するんだよ!!」と思っちゃうし、まったく何の役にも立たない。
もちろん、リラックスのために公園を散歩する時間もないし、ハーブティーの芳醇な香りを楽しむ飲む時間もないし、クラシックを聴きながらゆったりとソファーに座ることもできない。
「手のひらに”ヒト”という漢字を書いてね、それをこう…」
「そんな古典的な方法で気持ちが落ち着いたことなんかねーよ!!」
極度の緊張を落ち着けたい。
激しい怒りを収めたい。
イライラしてどうしようもないのをどうにかしたい。
そんなとき、どうすれば確実に心を落ち着けられるのか?
心を落ち着かせるような魔法の言葉は存在しない。
そこで、科学的に根拠のあるリラックス方法を2つの方法を紹介したい。
確実に心を落ち着かせる3つの具体的な方法
先ほど紹介した”心の持ちよう”にアプローチするようなアドバイスは、実際問題としてほとんど機能しないし、やってみても効果はない。
気休めの言葉は心に響かないし、心を落ち着かせる魔法の言葉なんてない。そんな魔法の言葉があれば、この世の中はもっと過ごしやすくなるだろう。
言葉によるアドバイスで、メンタルはすぐに変わるわけないのだ。
だけど…
「心を落ち着かせるような魔法の言葉」は存在しないが、「心を値憑かせるような魔法の行動」は存在する。
具体的で、即効性があり、確実に精神状態を変化させるには、メンタル(精神)ではなくフィジカル(肉体)にアプローチするのが正しい。
その意味では、先ほどのアドバイスの中にあった「お風呂」「ヨガ」「公園を散歩」というアプローチは、ある程度は具体的な精神安定作用を持っているということになるだろう。
だがここでは、より早く、いつでもどこでも簡単にできる精神を落ち着かせるメンタルコントロールの方法を2つ紹介したい。
深呼吸の科学的効果と具体的なやり方
まず一つ目は、誰もが知っているけれど過小評価されがちな落ち着きを取り戻す方法、深呼吸だ。
人はムカつくことがあったら怒りを感じて心拍数が上がるし、初対面の人や偉い人と話すときは緊張してドキドキするし、大勢の人の前で話すとなると頭が真っ白になってしまう。
そもそも、なぜ人は”緊張”するのだろうか?
それは自律神経のひとつである”交感神経”が興奮してしまうから。
自律神経は自分で律することのできない体内の活動を司っている。私たちが意識していなくても心臓は脈打っているし、暑かったら汗が出るし、食べ物を食べたら消化してくれる。これらはすべて自律神経のおかげ。
(ちなみに、自分で動かせる筋肉は”運動神経”がコントロールしている。人間の生命活動は、自律神経と運動神経のふたつが両輪となって成り立っている)
この自律神経には、さらに活発な活動を司る”交感神経”と、安静と休憩を司る”副交感神経”のふたつがある。
緊張したり、恐怖を感じたり、怒りを感じたりして交感神経が興奮してドキドキするのは、全身の血流を良くして戦ったり逃げたりする準備をしているからだという。
もし極度の緊張をどうにかしたいのなら、交感神経を落ち着かせ、副交感神経のほうを優位にする必要がある。
副交感神経はリラックスしたときに活性化するので、休憩したり、お風呂に入ったり、布団に入ってゴロゴロしているときに優位になる。だけど、いつでもどこでもそんなことはできるわけはない。
実は、この副交感神経を強制的に優位にするには深呼吸が効果的だという。
なぜならば、呼吸は交感神経系でありながらも、運動神経でコントロールできるからだ!!
息を吸ったり吐いたりは、自分で意識しなくても自律神経が勝手にコントロールしてくれる。だけど体中の器官の中で”呼吸”だけは自分の意識でもって吸ったり吐いたりもできる。
交感神経が活性化すると、無意識のうちに呼吸が浅くなり、回数も増える。
これを自分で意識して、深く、ゆ~っくりと呼吸することで、興奮状態にある交感神経を抑え、副交感神経を活性化させられる。
昔から「緊張したら深呼吸して落ち着け!」といわれているけど、このアドバイスはとても理にかなっているといっていいだろう。
具体的には呼吸のペースを1分間に4回~6回にするのが効果的。
10秒~15秒に1回くらいのペースで呼吸する。
日本人は「深呼吸」と漢字で書くから「深く呼吸する」というイメージを持っちゃうかもしれないけど、”深く”というよりもゆっくりと丁寧に呼吸するイメージ。
やってみると、少しずつ心が安らぐのがわかる。
気休めのアドバイスを100回聞くよりも、ゆっくりと深呼吸を10回する方が遥かにリラックスできるはずだ!!
九字を切ることで得らえるリラックス効果
三重大学の精神科医小森照久教授の研究によると、”九字を切る”ことにも驚くほどのリラックス効果があることが分かったという。
”九字”とは、「臨・兵・闘・者・皆・陳・裂・在・前」という、9つの言葉を唱えながら、両手を組み合わせて独特の形を作り出すことだ。
三重大医学部の小森照久教授(精神医学)が、忍者が手を合わせて呪文を唱える「印」をした際の脳波や心拍数を調べた結果、ストレスが緩和され、落ち着いた状態になっていることが分かった。
印とは「臨・兵・闘・者・皆・陳・裂・在・前」と、9つの言葉を唱えながら、決められた形に指や手のひらを合わせること。
(中略)
印を結んだ経験者と印を結ばない未経験者を比較すると、経験者の方がリラックスした際に検出される脳波や副交感神経の働きが活性化。経験者が印を結んだ場合と結ばなかった場合でも結んだ方がその傾向が表れた。
小森教授は「一般的に言われるリラックスとは少し異なり、集中力も維持されている。闘いに適した状態」と分析した。
小森教授の研究では、九字を切ることで副交感神経が活性化し、リラックスすることがわかったという。
通常、副交感神経が優位になると注意力もなくなり、緊張感に欠けた状態になる。しかし九字を切った場合は集中力が維持されるらしく、まさに”いい意味での緊張感”を持った状態であり、最高のパフォーマンスを引き出す”ほどよいリラックス状態”といっていいだろう。
忍者はそのミッションの前に九字を切って心を落ち着かせたという。
私たち現代人は、たしかに昔のように血生臭い闘争はなくなったものの、日々違う意味での戦いに明け暮れ、ストレスを感じ続けている。
そんな闘いの日々への”覚悟”として、九字の切り方を覚えておいて損はないだろう。
画像:Wikipedia「九字護身法」より参照
こちらがWikipediaに載っていた九字の画像。
だけど、なかなか画像だけでは九字の切り方がよくわからない。
そこでもっといい参考資料はないものかと探してみると、とてもわかりやすく解説されたyoutube動画があった。
なんとも中二心をくすぐるカッコ良さがある!!(そういえば中学の頃、得意げに九字を切ってた同級生がいたような…)
さっそく自分でもやってみた。
「臨!!」
「兵!!……兵ッ!!?」
やってみると、兵(ぴょう)の印の結び方がめちゃくちゃ難しい!!
なんなんだ、この指の形は。人生で一度もこんな指の形にしたことないわ。
というわけで、何とか苦労しつつも九字を切ることに成功した。
これを暗記して印を結びながら「臨!兵!闘!者!皆!陣!烈!在!前ッ!!!」とやってみたい。きっとリラックスできるし、周りから変な目で見られることだろう。
ところで、先ほどの記事では「なぜ九字を切るとリラックス効果が得られるのか」については説明されていなかった。
だけど実際に九字を切ってみて、その理由がわかった気がした。
指は人間の身体の中でもっとも器用に、精密に、繊細に動かせる。
なぜ指がこうまでも精密に動けるのかと言うと、指には独自の運動神経の経路が複数存在していて、脳からの指令をきめ細かくダイレクトに伝えられるからだといわれている。
つまり、指先は身体の中で最も脳と結びつきが強いといえる。
この指先を動かしたりストレッチすることは、脳を活性化せる作用がある。
おそらくこの「九字を切る」という行為、その複雑な指の形は、脳にとっての凄まじい刺激になっているはず。
そう考えると、九字を切ることでリラックス効果と同時に集中力が増したという実験結果も頷ける。
おそらく、認知症の予防効果、記憶力の向上などの効果も期待できるはずだ。
忍者はこんな脳への効果も、その長い歴史の中で体験的に学んでいて、ミッションを始める前、そして後に九字を切っていたのだろう。
ミッションを始める前は集中を高めるため、ミッション完了後は心身を落ち着けるために九字を切っていたのだ。
”今”という時代を戦い続ける忍者の末裔である私たちも、たしなみとして九字を切ることを覚えた方がいいのではないだろうか!?
ルーティン行動でパニック寸前の自分を軌道修正させる方法
プロ野球選手のイチローや、ラグビーの五郎丸選手がやっていることで注目を浴びた「ルーティン行動」は、なにもプロのアスリートだけが活用するテクニックではない。
私たち一般ピープルも、ルーティンを日常生活に取り入れることで緊張を和らげ、パフォーマンスを上げられる。
そもそもルーティン行動とは、決められた動きを繰り返し行うことを指す。
このルーティン行動を行えば、パニック寸前の心と体を、強制的にいつもの自分に軌道修正することが可能だ。
でも、ただやみくもにイチローのマネをしたって無意味。
ポイントは行動と成功体験を結び付けること。
例えば「玄関を出る時には必ず右足から踏み出す」という行動をしたときに「緊張せずに上手く人前で話せた」という経験を何度か繰り返す。
それはある意味では”ゲン担ぎ”のようなもの。
「今日も玄関から右足で出たから大丈夫」
そんな感じに思えるように、ルーティン行動を繰り返し、その行動に経験や結果を積み重ねるのが大切だ。
これには長い年月がかかるかもしれないが、やってみて損はない。
ゲン担ぎという意味では、神社にお参りに行くとか、お守りを持つとか、ジンクスやおまじないも、精神を落ち着けるのに有効だろう。
それらの行動と結果が、自分の中でしっかりと結びついている場合のみだけど。
緊張する場面では、誰にも見られないようにガッツポーズをする。
神に祈るポーズをする。
手のひらにヒトという字を描いて飲んだっていい。
「手のひらに”ヒト”という漢字を書いてね、それをこう…」
「そんな古典的な方法で気持ちが落ち着いたことなんかねーよ!!」
なんて最初に書いたけど、「人という字を飲み込む」という行動をやったことのない人がいきなりやってもまったくの無意味。
だけどその行動をしっかりとルーティン化しているのなら、ちゃんと効果があるはずだ。
自分で同じ行動を決めて、それをルーティンにし、それと”気持ち”をしっかりと結びつける。
そうすればある特定の行動(ルーティン行動)をすることで、無条件にリラックス状態に持っていけるだろう。
身体と心はお互いに影響し合っている
身体と心はお互いに強く影響し合っている。
楽しい気分になると自然に笑顔になるけど、悲しくても辛くても、取りあえず笑顔になると少しだけ楽しい気分になる。
がっくりと肩を落としてため息をつくと、なんとなく気持ちも落ち込んでくる。
笑顔でガッツポーズしてみると、辛い出来事のあとでもなんだか元気になってくる。
感情が行動に影響するように、行動もまた感情に強く影響している。
この作用を利用して、曖昧な言葉による思い込みよりも、具体的な行動により、実践的にメンタルをコントロールしよう。
緊張した時は、目を閉じ、数回深呼吸して、ゆっくりと目を開け、そして一息に九字を切る!!
そうすれば、極度の緊張状態でこわばった身体、パニック寸前だった交感神経も落ち着きを取り戻し、本来の自分を取り戻せるだろう。
きっと、上辺だけのどんなアドバイスよりも遥かに効果があるはずだ。
とくに緊張しやすいって人は、是非とも九字の切り方を覚えて実践してみるといいかもしれない。
緊張した方が成功する!!?
というわけでいろいろと緊張を緩和させる方法を紹介したわけだけど、そもそも緊張を感じやすい自分に悩んでいたとしても、そのままでいいかもしれない。
テレビのバラエティ番組で明石家さんまさんが、視聴者の「緊張して人前でうまく話せない」という相談に、素晴らしい回答をしていたので紹介したい。
(緊張することは)ありますよ。
お笑い芸人はとくに、”緊張しない人”って売れないんですよ。
緊張する人が売れる、緊張しない奴はダメなんですよ。
(自分も)若いときは、ずっと緊張してた
テレビの前では緊張のかけらも見せない、人気の芸人達も、出番の前ではすごく緊張している人も多いのだとか。
緊張するからこそ、努力して成果を出そうとする。
緊張するからこそ、筋肉がほどよく緊張してパフォーマンスが上がる。
緊張するからこそ、真剣に向き合う。
緊張することは、デメリットだけじゃないのだ。
「どうしても緊張しちゃうのなら、その緊張する自分を受け入れて、そのままの自分で頑張ればいい」
さんまさんは、そんな風に考えているんだね!!