エクソシストとはカトリック教会に所属する悪魔祓いの専門家のこと。
かの有名なホラー映画「エクソシスト」では、悪魔に憑りつかれた少女と悪魔祓いとの戦い描かれている。
映画エクソシストでは悪魔に憑りつかれた少女が狂暴な言葉遣いになり、暴れたり失神したりするのだけど…
この”悪魔付き”という現象、実は「抗NMDA受容体抗体脳炎」という病気と症状が酷似しているといわれている。
そのため、抗NMDA受容体抗体脳炎はエクソシスト症候群なんて呼ばれることもあるのだ。
今回は悪魔祓いの実態とエクソシスト症候群の症状の特徴について紹介したい。
映画エクソシストのストーリー
映画エクソシストは悪霊に憑りつかれてしまった12歳の少女リーガンと、彼女の悪魔祓いを試みるエリン神父とカラス神父、2人のエクソシストの戦いを描いたストーリーだ。
まずは映画エクソシストのストーリーを簡単に説明しよう。ネタバレ有りなので未視聴の方は注意して欲しい。
リーガンは女優の母親クリスとの母子家庭で育つ。
健康で明るく育っているリーガンであったが、次第に身の回りで不思議な出来事が起き始める…。
天井から奇妙な音がする。
ベットがドンドンと揺れる。
ウィジャボード(西洋のこっくりさんのようなもの)で見知らぬ霊的存在(ハウディー船長)と話していると告げるなど…。
さまざまな奇行が現れ、母親は困り果ててしまう。
リーガンが逆さで階段をかけ降りる名シーン!!これぞ悪魔の所業だ!!
リーガンの言動がだんだんおかしくなり、手が付けられなくなった母親は小児科で診てもらうことにする。
だけど健康診断中にリーガンは卑猥な言葉の連発し、医師たちを困惑させてしまう。
小児科医には神経症、抑うつ症診断され、薬をもらうのだけれども、リーガンの症状はまったく良くならない。
次に母親は脳外科医のところにって詳しく調べてもらう。
だけど脳にも異常はなく、何の問題もなかった。
その次は精神科医のところだ。
だけど精神科医もリーガンの症状の原因を見つけることができず、「夢遊病の一種では?」と判断することしかできない。
母親が「どうしたらいいの!?」と叫びながら抗議すると、精神科医にショック療法の一環として”悪魔祓い”を勧められる。
「悪霊に取り憑かれたと思い込んでる患者に思いのほか効果があるんですよ。暗示です」
その精神科医の言葉に従い、母親は近所に住んでいるカラス神父に相談する。
カラス神父は神学に精通しながらも、同時に精神科医でもあった。
母親「悪魔祓いをお願いしたいの!!」
カラス「もう悪魔はいないですよ」
母親「いつから?」
カラス「私が習ったような精神医学が発達してからです」
神父でありながらもリアリストでもあったカラス神父は、母親の話を信じられずにいたものの一応悪魔祓いを引き受けることにする。
悪魔が憑りついたリーガンと出会った神父は、彼女が知るはずもない自分の苦悩を見破られたりと、リアルガチな悪魔の恐ろしい力をまざまざと見せつけられる。
そこでカラス神父は経験豊かなエリン神父に助けを求め、2人でリーガンに憑りついた悪魔と対峙する。
空中に浮かび上がるリーガンにビックリ仰天のエリン神父とカラス神父
その悪魔祓いでは恐ろしいことが起こった。
2人の神父が必死に悪魔祓いをするも、悪魔は笑い続け、なかなか立ち去らない。
もともと心臓の悪かったエリン神父は悪魔祓いの最中に心臓発作を起こし、カラス神父が目を離していた隙に絶命してしまう。
それをみたカラス神父が覚悟を決める。
「私に憑りついてみろ!!」
そう悪魔を挑発し、自分自身の体内に悪魔をおびき寄せた後に、窓から身を投げて悪魔もろともに絶命したのだ。
…2人の神父が亡くなった凄惨な事件ではあったが、少女リーガンの中の悪魔はすっかりと消え失せていた。
神父はその命と引き換えに少女を救ったのであった。
おしまい
これが映画エクソシストのストーリー。
少女が精神的な異常をきたし、いろんな病院の検査を受けるも、まったく原因が不明。そこで悪魔祓いによって正常を取り戻すというわけだ。
この”悪魔祓い”は実際にカトリック教会で行われていて、教会には悪魔祓いの専門家も存在する。
とはいえ、世の中にはびこるいわゆる”悪魔付き”のほとんどが、精神疾患の一種で説明がつくという。
そんな精神疾患と”悪魔付き”を見分けるため、カトリック教会では悪魔付きの4つの条件を決めている。
憑依を見分ける4つの症状
- 人智を超えた力を発揮する。
- 依頼者自身の本来の声とは違う声で話す。または知らない言語で話す。
- 遠い場所での出来事など、依頼者が知り得ないあらゆる事実を知っている。
- 神聖なものに対して冒涜的な怒りを感じる
wikipedia:カトリック教会のエクソシスムより参照
映画に登場したリーガンはとんでもない力で大人を投げ飛ばすし、空中に浮くしで、人知を超えた力を発揮している。
また、悪魔のような顔つきとだみ声で、まさに本人の声とは違う言葉で話していた。しかし映画の中では知らない言語で話してはいなかったと思う。
カラス神父のプライベートな事情を指摘していることから、遠い場所での出来事を知っている条件も満たす。
神聖なものに対する冒とく的な行為を嬉々として行っているシーンもある。
映画に登場したリーガンは、これら4つの条件を満たしたまさにリアルガチな悪魔付きといっていいだろう。
では次に、悪魔付きの似た症状を示す精神疾患「抗NMDA受容体抗体脳炎」の症状について紹介したい。
エクソシスト症候群の症状とは?
抗NMDA受容体抗体脳炎、通称エクソシスト症候群とは、脳炎の一種であり、発症すると様々な異常な障害があらわれる。
その特徴として、特に女性で発症リスクが有意に高いところがあげられる。
2008年に発表された臨床データによると、100例中91例が女性。つまり、エクソシスト症候群の患者は9割以上が女性ということになる。
発症年齢は5歳~76歳までと幅広いけれど、特に20代前半の若い女性に発症しやすいという。
その具体的な症状は5つの段階に分けられる。
①前駆期
まず最初に風邪のような症状がおきる。
発熱や頭痛、倦怠感など。
②精神病期
風邪のような症状の後は、メンタルにも悪影響が及ぶ。
無気力、無感動、抑うつ、不安、孤独感などを強く感じるようになる。
携帯の使い方がわからなくなるなど、日常の単純な行為がわからなくなるようだ。
こういった行為が、或いは悪魔が憑りつき、文明の利器を物珍しそうにいじっているように見えるかもしれない。
その後、急速に病状は悪化。
異常な興奮、幻覚や妄想など、統合失調症のような症状が出現し、さらに痙攣発作も併発する。
妄想や幻覚は恐怖の感情を伴うことが多い。恐怖の叫びや他者への暴言、さらに白目をむいて痙攣し始めたとしたら、何も知らない人であれば「悪魔が憑りついた!」と勘違いしてしまうかもしれない。
③無反応期
激しい興奮の後は無反応期に移行する。
目は開いているが目の前で手を振っても無反応。会話をすることもできず、外界からの刺激に反応することもなくなる。
自発呼吸すらも弱くなっていく。
④付随運動期
さらに無反応期に入ると同時に、身体が奇妙に動き出す症状も合われれる。
口が痙攣したり、強い歯ぎしりや食いしばり、舌のねじれや前後左右への奇妙な動きなど。(口部ジスキネシア)
絶え間なく虫がうごめくような動きを続ける(手指のアテトーゼ様運動)
さらに、意識を伴わない奇妙な付随運動や痙攣発作。ダンスしているような全身運動も出現する。
激しい発汗や過剰な唾液分泌も併発することもあり、多様な自律神経症状を伴う。
⑤緩徐回復期
激しい症状の後は、少しずつ奇妙な付随運動が落ち着き始め、精神状態も徐々に回復する。
しかしながら、抗NMDA受容体抗体脳炎から回復したケースは全体の75%であり、7%は死亡するというから恐ろしい!!
このような抗NMDA受容体抗体脳炎の症状をみてみると、まだ医学が発達していなかった時代に「悪魔が憑りついた!!」と勘違いされてしまうのも頷けるだろう。
映画エクソシストについても、抗NMDA受容体抗体脳炎の知識を踏まえたうえで観てみると、確かにリーガンの身体が宙に浮いたり、悪魔のような顔つきになっている過剰な描写はあるものの、エクソシスト症候群で説明がつくようにみえる。
では次に、エクソシスト症候群の知識を踏まえたうえで、実際に起きたエクソシスト事件を紹介しよう。
悪魔が憑りついた修道女
イタリアのローマにバルバラという修道女がいた。
彼女は真面目な修道女であった。いつものように教会で祈りをささげていると…なんと突然祈りをささげて両手を握っていた手の平から血が流れだしたのだ!
手のひらを確認すると、身に覚えのない深い傷があり、そこから血が滴っていた。
それをきっかけにバルバラに異変が起こり始める。
恐ろしい悪魔の幻覚を見るようになったばかりか、仲間の修道女に襲い掛かったり、突然失神したり、自傷行為をしたり。
その所業はまさに悪魔のようであった。
そこで呼ばれたのカトリック教会が擁する最強のエクソシストのひとり、カンディド・アマンティーニ神父だ。
彼は映画エクソシストの監修も担当している、当時最高峰に位置したエクソシスト。
本当かどうかはわからないけれど、カンディド神父がバルバラに悪魔祓いを始めると、バルバラは苦しみだしてなんと神父の目の前で宙に浮いたという!!
まさに映画エクソシストそのものの現象が現実に起きたのだ。
さらに悪魔祓いの最中にバルバラは激しい嘔吐を繰り返す。そこでバルバラが吐いたのは鉄の鎖や釘などの、飲み込むことができない異常な品物であった。
最終的にバルバラはさすがのカンディド神父でも悪魔祓いはできず、シチリアの終身制女子修道院にいるという…。
メリーランド悪魔付き事件
メリーランド悪魔付き事件は、映画エクソシストの”元ネタ”になったということで有名なオカルト事件だ。
事件は1949年のメリーランド州コッテージシティ市で起こる。
悪魔に憑りつかることになるのはロビーという少年。彼は一人っ子で、よく叔母の家に預けられていた。
この叔母がちょっとしたオカルト好きで、ロビーにウィジャボードなどの遊びを教えていたという。
そんな叔母が急に亡くなってしまう。叔母の死にショックを受けたロビーは教えてもらったウィジャボードで、叔母の霊魂とコンタクトを試みる。
ここら辺から、ロビーの身の回りに奇妙なことが起こり始める。
屋根裏でゴソゴソと何かが動く音、壁を叩く音、さらに家具が勝手に動き足したこともあった。
その変化は次第にロビーにもおよび、彼の性格をも激変させてしまう。
狂暴な言葉遣いや暴力的な行為。さらに身体には「助けて!」「閉じ込められた!」といった生傷が浮かび上がることもあった。
困り果てた両親は病院に連れていくけれども、その症状はまったく収まらない。そこでカトリック教会の悪魔祓いをすることになったのだ。
悪魔祓いが行われると、部屋のイスが勝手に移動したり、さまざまな恐ろしい現象が現れ、神父たちを妨害した。
ロビーの悪魔祓いの儀式は30回以上、2か月以上にわたって行われ、ついに悪魔は退散した。
ロビーはすっかり平静を取り戻し、悪魔に憑りつかれていた時期の記憶はすっぽりと抜け落ちていたという。
抗NMDA受容体脳炎を題材にした映画
抗NMDA受容体脳炎の症状を理解してから、実際に起きたバルバラの悪魔付き事件や、メリーランド悪魔付き事件をみてみると、なんとなくホンモノの悪魔ではなく何らなの脳の異常が原因なのではないかと思ってしまう。
ある意味では映画エクソシストも抗NMDA受容体脳炎を題材にした映画と捉えることができるかもしれない。
実はエクソシスト以外にも抗NMDA受容体脳炎を題材にした映画はある。
8年越しの花嫁 キミの目が覚めたなら
2017年12月に公開された佐藤健、土屋太鳳主演の「8年越しの花嫁」は、婚約してラブラブ絶頂期に抗NMDA受容体脳炎に侵されてしまった女性と、その女性の回復を8年間も待ち続けた男性の、実話をもとにしたラブストーリー。
かけがえのない人を待ち続けた8年間。これは実際に起きた、奇跡のラブストーリー。
尚志と麻衣は結婚を約束した20代のカップル。幸せ絶頂の2人だったが、結婚式の3ヶ月前、麻衣を原因不明の病が襲う。一時は心肺停止、長い昏睡状態で麻衣は寝たきりとなる。
そこから尚志は毎朝出勤前に病院まで通い、麻衣を看病し続けた。しかし、いつ目が覚めるかわからない状態に、麻衣の両親からは「もう他にいい人を見つけたら」と言われる。それでも尚志は諦めず、麻衣の側で回復を祈り続ける。
その祈りが届いたのか、数年後、麻衣は徐々に意識を取り戻し、言葉を発するようになるが、そこへ更なる試練が―。麻衣は、記憶障害により尚志の記憶を失っていたのだった。
抗NMDA受容体脳炎による昏睡状態、そして心肺停止、さらに記憶障害と、抗NMDA受容体脳炎の恐ろしい症状が、ストーリー説明からでも見て取れる。
彼女が目覚めるその日まで
「彼女が目覚めるその日まで」もまた抗NMDA受容体抗体脳炎に侵された女性が主人公の物語。奇しくも「8年越しの花嫁」と同じく、2017年12月に公開されている。
そのストーリーを映画公式サイトの紹介文から抜粋して紹介しよう。
憧れのニューヨーク・ポスト紙で働く21歳のスザンナ・キャハランは、1面を飾る記者になる夢へと突き進んでいた。
付き合い始めたばかりのミュージシャンの恋人スティーヴンを両親に紹介し、仕事も恋も順調だ。
ところが、“それ”は足音もなく突然やって来た。
物忘れがひどくなり、トップ記事になるはずの大切な取材で、とんでもない失態を犯してしまう。
幻覚や幻聴に悩まされて眠れず、遂には全身が痙攣する激しい発作を起こして入院するが、検査の結果は「異常なし」。
日に日に混乱し、会話もできなくなってしまったスザンナを見て、精神科への転院をすすめる医師たち。
だが、両親とスティーヴンは、スザンナの瞳の奥の叫びを感じていた──。
この説明文、見方を変えればそのまま映画エクソシストでも通用しそうな内容ではないか。
どちらの映画も実話をもとにしていて、抗NMDA受容体脳炎の特徴である若い女性がかかっている。
興味のある方はエクソシストと3本だてて観てみるのもいいかもしれない。ただのホラー映画だと思っていたエクソシストの見方が変わるだろう。
エクソシストで悪魔に憑りつかれた可哀想な少女リーガンも、「近所に住んでる勇敢でカッコいい初恋の男の子」なんてキャラが登場していたら、ホラーじゃなくラブストーリーになっていたかもしれないね。
残り3%の悪魔
抗NMDA受容体脳炎は現在の日本でも、年間1,000人ほどが発症しているともいわれている。
もし抗NMDA受容体脳炎の初期症状のような言動が現れたら、「悪魔に憑りつかれた!!エクソシストに相談だ!!」と思わずに、すぐさま医療機関で精密検査をしてもらう必要があるだろう。
ただし…それが本当に抗NMDA受容体脳炎(エクソシスト症候群)であるかどうかはわからない。
本物のエクソシストは今でも存在し、世界のどこかで悪魔祓いの儀式を行っている。
プロのエクソシストに依頼される悪魔的事件、その実に97%がエクソシスト症候群をはじめとした何らかの精神疾患や妄想、物理的に説明のできる原因があるという。
そういった悪魔が原因ではない事象に対しても、腕の良いエクソシストは正しく対処することができる。
ただし、残りの3%については…。
医学的、科学的にまったく説明のつかない悪魔的な事件は実際に存在しているのだ!!!